2007年8月の音楽

Index

  1. Planet Earth / Prince
  2. The Great Unwanted / Lucky Soul
  3. INDEPENDIENTE / Dragon Ash
  4. Brett Anderson / Brett Anderson
  5. Zeitgeist / Smashing Pumpkins
  6. Live In Dublin / Bruce Springsteen With The Session Band

Planet Earth

Prince /2007 / CD

Prince - Planet Earth

 前作からわずか1年ちょっとのインターバルで登場したプリンスの新作。これが、これまでのキャリアでもっともすっきりした印象の作品に仕上がっている──と、まあ、僕個人は思う。
 プリンスというと、これまでは音楽的にも人間的にも、脂ぎったイメージが強くあったけれど、そんな彼も来年でもう50歳だそうで、さすがに最近は人間的にもずいぶんと丸くなってきた印象がある。ひんぱんにライブを行っているユーザー・フレンドリーな姿勢にも、そんな変化が感じられるし、当然、作品にもその影響が出てきている。
 シーラ・Eやウェンディ&リサら、80年代に一斉を風靡したころの仲間たちをゲストに迎えて録音されたこの作品では、基本的な音楽性はそのままながら、音のイメージが非常にさわやかだ。すごくリラックスして、軽快に演奏している感じがして、聴いていてとても気持ちいい。昔のプリンスには、こんな暑い時期に聴くのはちょっとと、ためらってしまうような濃厚さがあったけれど、この作品はそんなことがない。殿下の襟元はやたらと涼しげ。全10曲、45分足らずというアナログ時代の頃のようなコンパクトさも、そうした印象を強めていると思う。
 お得意のスーパー・キャッチーなメロディをもつ Resolution でラストを飾ってみせた点も嬉しい。この夏の僕のお気に入りの一枚。
(Aug 26, 2007)

The Great Unwanted

Lucky Soul / 2007 / CD

The Great Unwanted

 笑っちゃうくらい見事にモータウン風60年代ガーリー・ポップスを再現してみせて、{ちまた}でも話題のUKのニューカマー、ラッキー・ソウルのデビュー・アルバム。
 このバンドのなにがいいかって、これがデビュー作である点。たとえば、往年のハニードリッパーズみたいに、ベテランのミュージシャンたちが規格ものとして、こういうのをやってみせたって、それほどおもしろくはないだろう。
 ところがこのバンドの場合、名もない新人たちが二十一世紀のいまになって、40年前の音楽スタイルを、ものの見事に自分たちのオリジナルとして表現してみせている。その徹底したレトロさが、きちんとさまになっているのが素晴らしい。こういうのが好きなんだからいいじゃんとばかりに開き直り、時代性を無視して、ただひたすら好きな音楽を一生懸命鳴らしてみせたところ、ちゃんとリスナーに届きました、という感じで感動的。
 そもそもモータウンっぽいものをやろうと思ったって、あの時代に通じる良質な歌が書けなければ、はじめっから勝負にはならないわけで、このバンドはその点、非常にクオリティが高いポップ・ソングを書いているし、それをちゃんと聴かせるだけの演奏をしている。
 そして、なんといっても紅一点の女性ボーカリスト、アリ・ハワードの歌が素晴らしい。飛び抜けて上手いというタイプではないけれど、それでも甘くて伸びやかで、自信たっぷりな歌いっぷりがとても魅力的。こんなに女の子の歌を可愛いと思ったのはひさしぶりだった。
 彼女も含め、メンバーがそろいもそろって垢抜けないところもいい。驚いたことにボーカルのアリ嬢はすでに30歳だとか。ルックスなんてよくなくったって、少しばかり歳がいっていたって、自信をもって素晴らしい歌が歌えさえすれば、誰だってヒロインになれる。そんな風に思わせてくれる音楽のマジックがここにはある。
 このバンドは、一度ぜひライブで観たいです。
(Aug 26, 2007)

INDEPENDIENTE

Dragon Ash / 2007 / CD

INDEPENDIENTE(初回限定盤)

 ドラゴン・アッシュの2年ぶりの新作。
 2001年の 『Lily Of Da Valley』 で一度は圧倒されたものの、その後の彼らの2作品は、僕にはいまひとつぴんとこなかった。方向転換してドラムン・ベースを大々的に取り入れた音楽性が、あまり趣味にあわなかったせいだと思う。
 今回の作品では、そのドラムン・ベースへの傾倒が、さらに形を変えて、サンバという形で血肉化している。そのへんの流れが、とてもわかりやすくておもしろい。しかも、おもしろいだけじゃなくて、大正解だったと思う。打ち込み主体だったドラムン・ベースから、生音志向のサンバへと移行したことで、バンドとしての躍動感が格段と増した気がする。すごく格好いい。
 ひさしぶりに、このバンドはライブで観たら、さぞやすごいんだろうなと思わされる作品だった。
(Aug 26, 2007)

Brett Anderson

Brett Anderson / 2007 / CD

Brett Anderson

 元スエードのボーカリスト、ブレット・アンダーソンのファースト・ソロ・アルバム。
 初めて聴いたときには、これはちょっと落ち着きすぎじゃないかと思った。なにしろアッパーな曲がひとつもない。ストリングスをフィーチャーした、ミディアム・テンポの曲ばかりがずらりと並んでいる。ジャケットの写真もまるで飾りけのないプライベート・フォトといった感じだし、いきなり枯れまくり。僕よりひとつ年下らしいけれど、これはちょっとばかり老けすぎじゃないかと。
 ただ、そうは言っても、スエードで僕らを魅了した、独特の耽美的なメロディーセンスは健在。いや、スローな曲ばかりだから、かえってそれが目立っている気がする。おかげで繰りかえし聴いているうちに、すっかりその世界に馴染んでしまい、しんみりと聴き惚れている僕がいたりする。いやはや、おたがい若くはないねえ、と言いたくなるような、地味なる佳作だった。
(Aug 26, 2007)

Zeitgeist

Smashing Pumpkins / 2007 / CD

Zeitgeist

 スマッシング・パンプキンズ、解散から7年目の復活アルバムのはずだったのだけれど。
 クレジットを見ると、ビリー・コーガンとジミー・チェンバレンの二人しか名前がない。ダーシーはともかく、ジェームズ・イハ抜きでスマパンを名乗るのってのは、かなり反則っぽい。チェンバレンのドラム以外の楽器はすべてビリー・コーガンが演奏しているみたいだし、これは要するにビリー・コーガンのソロ第二弾なんじゃないのかと。
 そう思いながら聴き始めてみると、ところがこれが、あきらかにズワンやビリー・コーガンのソロとは音が違っている。こちらの方が圧倒的に抜けがいい。チェンバレンのドラムのおかげか、はたまたギターが開放的に鳴りまくっているせいか。なるほど、確かにこの雰囲気はスマパンかもしれない。
 音作りはやや一本調子な嫌いがあるけれど、少なくても僕はビリー・コーガンのソロ・アルバムよりは、こちらの方が好きだった。ビリー・コーガンという人が、スマパン解散後によって封印してしまった自分らしさを取り戻すためには、もう一度スマパンという名前が必要だったのかなと。そんなことを思わされる作品。はてさて、この人はいったいこれからどこへゆくんだろう。
(Aug 26, 2007)

Live In Dublin

Bruce Springsteen with the Session Band / 2007 / 2CD+DVD

Live in Dublin (W/Dvd)

 ブルース・スプリングスティーンが 『We Shall Overcome』 を一緒にレコーディングした大所帯のトラッド・バンドを率いて、アイリッシュ・トラッドの聖地、ダブリンで行ったツアーの模様を収めた2枚組ライブ・アルバムとDVDのセット。聴きどころは、あのアルバムの収録曲だけではなく、『Atlantic City』 や 『Blinded by the Light』 など、ボス自らの往年の名曲を取りあげていることだと思っていたのだけれど、いやはやこれが。
 ボス、メロディ変えすぎ。すでに一曲目の 『Atlantic City』 からして、歌詞を聞かないとその曲だとわからない。あそこまで変えちゃったら、懐かしいもなにもないです。まあ、それゆえナツメロになっていないと言えるかもしれないけれど、それじゃあ、この新しいバージョンのほうがオリジナルよりもいいかと問われれば、答えはノー。僕はオリジナルのメロディ・ラインで聴けたほうがどれほど嬉しかったか、わからない。
 CDと同じ内容をまるまる映像で収録したDVDのほうも、以前のNYでのライブなどと同じで、クローズアップが多すぎるのがネック。僕は引いたショットが多いほうがライブの臨場感が味わえていいと思っているので、ボスの顔ばかりをアップで映しまくるこのビデオの演出は、どうにも好きになれなかった。
 ということで、楽しみにしていたわりには、いまひとつ素直に楽しみきれない、ちょっとばかり残念な作品だった。なんだかスプリングスティーンの最近の作品は、年中こんな感じだ。
(Aug 26, 2007)