2007年6月の音楽

Index

  1. Some Loud Thunder / Clap Your Hands Say Yeah
  2. Classic Albums: The Joshua Tree [DVD] / U2
  3. Classic Albums: Songs In The Key Of Life [DVD] / Stevie Wonder
  4. BIG / Macy Gray
  5. Luvanmusiq / Musiq Soulchild
  6. Not Too Late / Norah Jones

Some Loud Thunder

Clap Your Hands Say Yeah / 2007 / CD

Some Loud Thunder

 クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤーのセカンド・アルバム。
 この作品、いきなり一曲目のボーカルが音割れまくりで、びっくりさせられる。ボーカルだけ、周波数のずれたラジオのように{ひず}んでいる。わざとそういう処理をしているのはあきらかだけれど、それで音楽的に気持ちいいかというとそんなわけがあるはずもなく。奇をてらいすぎて、ちょっとばかり失敗している気がする。
 アルバム全体としてはファーストよりも若干、音作りがラウドになった印象。でもってその分、やや繊細さが欠けてしまったかなと思う。
 ただ、あいかわらずよれよれとした独特の個性は健在だ。音的には力強さを増しているので、そうしたよれ方がなおさら印象的になった気もする。プロテインを服用して筋肉をつけてみたら、バランスが悪くなって、なおさらよれよれになってしまいました、みたいな作品。これはこれでおもしろい。
(Jun 17, 2007)

Classic Albums: The Joshua Tree

U2 / 2000 / DVD

ヨシュア・トゥリー [DVD]

 U2のエッジはロック史上、忘れちゃいけない名ギタリストのひとりだと思っている。エフェクターによるディレイ──なんという種類か知らない──でグルーヴを生み出す彼のギター・スタイルは画期的だった。あのスタイルはなにも彼のオリジナルじゃなく、あの時期には多くのアーティストがやっていたという意見もあるのかもしれないけれど、浅学にして僕はほかに知らない。少なくても僕にとっては、あのサウンドはエッジのオリジナルだ。こういう風に時代に足跡を残した人はきちんと評価されてしかるべきだと思う。
 だいたいにして、世間のギタリストに対する評価というものは、古典的なスタイルばかりに偏向しすぎている。しばらく前に『月刊プレイボーイ』が名ギタリスト・ベスト50みたいな企画をやっているのをちらりと見たけれど、取りあげられるのはジミヘンやクラプトンを筆頭に、ブルースやハードロック系のアーティストばかりで、オルタナティヴな人はほとんどいなかった。音楽専門誌じゃないところの企画だから、そうなるのも仕方のないことかもしれないけれど、それにしたって二十一世紀のいまさら、三大ギタリストやジミヘンばかりを祭り上げているってのは、いささか進歩がないんじゃないかと僕は思う。
 確かにオルタナティヴ系のギタリストというのは、ハードロックにくらべて地味だ。速弾きなんてしないし、エッジのようにエフェクターを効果的に使って、裏方に徹するタイプも多いので、派手さには欠ける。
 けれど、そんな彼らのスタイルは時代の要請によって、必然的に導き出されたものだ。誰もがクラプトンみたいなギターばかり弾いていたら、ロックはきっと、とっくの昔に閉塞してしまい、過去の音楽になってしまっていただろう。時代をひっぱるアーティストには、常により新しい音を求め、使えるものは積極的に取り入れてゆく姿勢がある。そういう人たちがいるからこそ、ロックンロールはいまだに刺激的な音楽であり得ているんだと思う。
 U2の傑作 The Joshua Tree の制作過程を振り返るこの映像作品のなかで、エッジは With Or Without You のコードやアルペジオを弾きながら、これがすごい好きなんだと、楽しそうに語っている。エフェクト抜きで聞かされるそれらのフレーズは、初めてギターを手にする人でも弾けるだろうってくらい、簡単なものだ。本人も「ノン・ドラマチック・ギターの極みだよね」みたいなことを言っている。こんなものを弾いて喜んでいる人は、そりゃ名ギタリストのランキングに取りあげられないだろう。
 でも、そんな彼の地味なギタープレイによって見事に色づけされたその曲は、間違いなくロック史上に残る名曲のひとつだ (とりあえずローリング・ストーン誌が選んだ The 500 Greatest Songs of All Time の131位に入っている)。そして僕はそのギターのフレーズや音色に、いまでも素直に感動できる。
 一度でもU2のライブを観たことのある人ならば、エッジのギターがいかに豊かな表現力を持っているか、よく知っていることと思う。東京ドームのような広い会場で、あそこまで彩り豊かな音楽を鳴らせる4ピース・バンドはそうざらにはない。そしてその音楽的な豊かさを支えているのは、間違いなくエッジのギタープレイだ。この上なく単調なアルペジオに至福を見出す偉大なるギタリスト。僕はこのDVDを見て、そんなエッジに対する好意を、よりいっそう深めた。
 まあ、作品全体としては、わずか1時間足らずだというのに、Zoo TV のライブ映像が流用されていたり、ぜんぜん違う時期の Sweet Things のビデオクリップが収録されていたりと、いかにも時間つなぎだとわかる、なんだかなあという部分もあるけれど、それでも、そんなエッジやほかのメンバーたちの貴重な発言なども見られるし、U2が好きな人は見ておいたほうがいい作品だと思う。
 ちなみにこの作品のオープニングに登場するのは、なんとボノでもエッジでもなく、エルヴィス・コステロだったりする。アルバム・リリース当時の彼の奥さん、ケイト・オリオーダン──ポーグスのベーシストだった人──がU2のファンだったそうで、The Joshua Tree が発売日の深夜0時に先行リリースされると聞いて、その時刻に店の前に並んだのだそうだ。 「買って帰ってすぐに聞いたよ。素晴らしいアルバムだった」
 そう語る彼の笑顔とともにこのドキュメンタリーは始まる。
 87年当時のコステロ先生はといえば、すでにキャリア十年にして、アルバム十枚をリリースしている有名アーティスト。それが奥さんと一緒とはいえ、自分よりあとにデビューしたバンドの新譜を買うために、深夜のレコード屋で行列に加わっていたという。これってなかなか微笑ましいエピソードだと思いませんか?
(Jun 17, 2007)

Classic Albums: Songs in the Key of Life

Stevie Wonder / 1998 / DVD

メイキング・オブ・キー・オブ・ライフ [DVD]

 名盤の制作裏話を紹介するドキュメンタリー・シリーズ、わが家での三枚目(にして現時点では最後の一枚)は、スティーヴィー・ワンダーの大作 Songs in the Key of Life の巻。
 これに関しては、アルバムのレコーディングに参加したミュージシャンたちが再び一堂に会してセッションを行うという企画があったらしく、そのダイジェストみたいな内容になっている。 『永遠のモータウン』 と似たような雰囲気で、あれとくらべてしまうと、正味一時間足らずということで、かなりものたりない。どうせならば、アルバム全曲を紹介する二時間以上のバージョンが見たかった。
 まあ、とはいっても、じゃあつまらないかというと、そんなことはない。クーリオの大ヒット曲 Gangsa's Paradise のもと歌となった Pastime Paradise が、いかに音を重ねていって現在のアレンジになったかを紐解くレコーディング秘話なんか、とても興味深い。少なくても、僕はこれを見ていなかったらば、あの曲にドラムが入っていないことなんか、気がつきもしなかっただろう。
 Village Ghetto Land の作詞を手伝ったというゲイリー・バードという人の話もおかしい。3ヶ月かけて書き上げた歌詞を電話で伝えたら、気にいってくれたのはいいけれど、15分後に再び電話してきて、「1小節追加することにしたから、あと10分でその分を書き上げてくれ」と要求されたという。スティーヴィー・ワンダーという人の、天才ならではの無邪気さというか、傍若無人さを伝えていて、おもしろかった。
(Jun 17, 2007)

BIG

Macy Gray / 2007 / CD

Big

 メイシー・グレイの四枚目。今回もあいかわらずヒップホップやラップへの気配りはほぼ皆無という、オールドファッションなR&Bを聞かせている。いまさらここまでわかり易くてキャッチーなソウル・ミュージックをやっているというのは、それだけで貴重な気がする。
 この人の場合、デビュー当時からその癖のあるボーカルスタイルに惹かれつつも、たまたま聞いたラジオのインタビューで「別にあたしは音楽だけに専念してくつもりはないから」みたいな発言をしていたのを聴いてカチンときて、以来、特別に聞かなくていいアーティストだとみなしてきたところがあった──とかいいつつ、ずっと聴いてきているわけだけれど。でも、さすがにこれだけ続けて、飽きもせずにこういう時代性を無視した良質なR&Bをやっているようだと、それだけでもう、過去は水に流していいような気がしてしまう──って、だからわざわざ流すような、たいそうな過去はないんだけれど。
 ということで、ナタリー・コールのほか、ブラック・アイド・ピーズのウィル・アイ・アムとファーギーがそれぞれ別クレジットで参加しているこのアルバム、僕はなかなか好きです。たとえジャケットがデビルマンの宿敵、シレーヌの仮装みたいであろうと、なかろうと。
(Jun 26, 2007)

Luvanmusiq

Music Soulchild / 2007 / CD

Luvanmusiq

 ミュージック・ソウルチャイルドもこれが四枚目。前二作は単なるミュージックと名乗っていたけれど、今回はデビュー作と同じく、ソウルチャイルドがついている。ミュージックだけだと、日本語ではいろいろとまぎらわしいので、どちらかというとソウルチャイルドがついていた方がいいと思う。
 それにしても、このアルバムは意外や意外、ビルボードで初登場第一位を獲得していたりする。そんなに売れているとは露知らず、個人的には、なんとなく惰性で聴いている人なので、いまだにそんなに人気があると知って、ちょっと驚いた。
 まあ、なんにしろ僕の場合、これまでの三作の内容だってほとんど覚えていないし、聴いているのはどう考えたって惰性以外のなにものでもない。こういうスムーズでスマートでメローなコンテンポラリー・ブラック・ミュージックは、普段の僕の趣味からは絶対に外れている。でも、そう思いながらも、なぜかアルバムが出るたびに買ってしまう。で、違うんだけれどなあ、とか思いつつ、何度か聴いているうちに、なんとなくいい気持ちになっていたりする。この調子だと、きっと次も聴いちゃうんだろう。
(Jun 26, 2007)

Not Too Late

Norah Jones / 2007 / CD [Deluxe Edition]

Not Too Late (W/Dvd) (Dlx) (Dig)

 ノラ・ジョーンズのサード・アルバム。前の二枚も結局あまり聴かなかったから、今回は見送るつもりでいたのだけれど、デラックス・エディションのジャケットの不気味なイラストが気にいって、つい衝動買いしてしまった。
 で、買いはしたものの、やっぱり今回もあまりぴんとこなくて、ほとんど聴いていない。アコースティックな音作りにはリッキー・リー・ジョーンズやカウボーイ・ジャンキーズなどに通じるものがあるし、本来ならば、ミュージック・ソウルチャイルドよりも、よほどこちらのほうが好きそうな気がするんだけれど……。
 結局、そういう風に白人アーティストにたとえられてしまうような、黒っぽくない音作りやグルーヴ感の希薄さに、ものたりなさを感じてしまっているのだと思う。どうせこういう路線を進むんならば、もっとどこかに破綻があったり、もう少し陰影があったりしてくれればいいのにと思ったりする。
(Jun 26, 2007)