2007年3月の音楽

Index

  1. Hit & Fun / パフィー
  2. A Weekend in the City / Bloc Party
  3. At The Movies: Soundtrack Hits / Van Morrison

Hit & Fun

パフィー / 2007 / CD

Hit & Fun (初回限定盤)

 パフィーもデビューしてもう10年だそうで。『アジアの純真』でブレイクした時には、まさか自分が10年後に彼女たちのベスト盤を買うことになるなんて、思ってもみなかったものだけれど、いざこうしてその間にリリースされたシングルを中心としたこのコンピレーションを聴いてみると、そのヒット・ナンバーのオンパレードぶりにはあらためて感心してしまう。10年のキャリアはだてじゃない。
 パフィーの強みは素材としての癖のなさだと思う。決して歌がうまいわけではないけれど、下手で聴けないというほどでもない。女性としての色っぽさを売りにしているわけではないけれど、でも女性ならではのしなやかさはきちんとある。変にどこかが突出していなくてニュートラルな分、どうにでも演出できる柔軟さがある。
 そんな彼女たちのキャラクターは、奥田民生を始めとした当代きってのロック・ミュージシャンたちが、自分たちの音楽を女性に託して表現する上で、うってつけだったのだろう。だからこのベスト盤にはメローなバラードは皆無。とにかくにぎやかで楽しげなロック・ナンバーがずらりと並んでいる。ほとんどすべてが踊れる曲だというところが、なによりもいい。
 収録曲のなかでも一番感心したのは『サーキットの娘』。いまさらながら、この曲は傑作だと思う。まったく異なった3つのパートを違和感なくつなげて見せた、意外なほど技巧的な楽曲。レース・クィーンを戯画化しつつ、きちんとラブソングとして成り立たせて見せたコミカルな歌詞の見事さ。サーキットという曲のモチーフとアンマッチなマージービート風アレンジメントの与える脱力感。それらの要素をなにげなく組み合わせてみせたこのナンバーは、奥田民生という人のもつ才能の大きさが遺憾なく発揮された、極上のポップ・ソングだ。まさに天才の{わざ}だと思った。
 でも、この曲が素晴らしいのは、奥田民生が天才だからというだけではない。なんたって彼が自身のアルバムでこの曲を演奏しているバージョンよりも、あきらかにこちらのパフィーのバージョンのほうがいいんだから。
 やはりこの曲は女性ボーカルでなくちゃいけない。それもソロでは駄目で、二人いないと。なんたって一番の聴かせどころは、「誰より速く帰ってきてね」というサビのフレーズの「ね」の部分。ここで「ね」だけがユニゾンになるところが本当に最高だと思う。この曲を歌うのに、パフィー以上にうってつけのアーティストなんて、おそらくいない。ちょっとばかり歌は下手でも。
(Mar 24, 2007)

A Weekend in the City

Bloc Party / 2007 / CD

Weekend in the City

 ブロック・パーティー、注目のセカンド・アルバム。音響的には文句ないけれど、全体的に楽曲がやや一本調子かなという印象だったファーストに対して、この二枚目はより音響的にカラフルになり、楽曲もいきなり1曲目がスローなアカペラで始まったり、コーラスが派手になったりと、いろいろと変化を見せている。全体的に、よりシリアスかつドラマチックになった印象がある。"I Still Remember" のあかるいメロディも、前にはなかったタイプで新鮮だ。
 ただいろいろと表現が多彩になった分、リズム・セクションの勢いにのってバンドが転がっていたようなファーストの{いさぎよ}さ、清々{すがすが}しさといったものが影をひそめてしまっているかなと思う。その点が個人的には少なからず残念かなという作品だった。
(Mar 24, 2007)

At the Movies - Soundtrack Hits

Van Morrison / 2007 / CD

Van Morrison at the Movies: Soundtrack Hits

 映画(特にロマンティック・コメディ)を観ていて、ヴァン・モリソンがBGMに使われていることがやたらと多いなと思っていたら、そう思ったのは僕だけではなかったらしく。ここへきて、そんな映画の挿入歌だけを集めたヴァン・モリソンのコンピレーションがリリースされた。
 おそらく『ディパーテッド』──祝マーティン・スコセッシ、アカデミー賞受賞~!──のなかで使用されているという、ピンク・フロイドのカバー曲のライブ・テイク "Comfortably Numb" が、ロジャー・ウォーターズの "The Wall: Live in Berlin, 1990" なんてアルバムにしか収録されていないというのも、リリースのきっかけとなったんだろう。僕はそんなものがあることさえ知らなかったから、このアルバムのリリースは願ったりかなったりだった。
 CDに詳細なクレジッットがついていないのが残念なところだけれど、データ充実の某ファンサイト(追記:残念ながら2008年6月に閉鎖)によると、使われている映画は以下のとおり(収録曲順)。
 『アウトサイダー』 『ワイルド・アット・ハート』 『悪の華/パッショネイト』 『偽りのヘブン』 『狼男アメリカン』 『Extreme Close-Up』(日本未公開)『テルマ&ルイーズ』 『ラスト・ワルツ』 『キング・オブ・コメディ』 『7月4日に生まれて』 『恋愛小説家』 『パッチ・アダムス』 『愛と青春の旅立ち』 『フレンチ・キス』 『ぼくのプレミア・ライフ』 『素晴らしき日』 『Donovan Quick』(日本未公開)『恋はワンダフル!?』 『ディパーテッド』。
 "Someone Like You" は『フレンチ・キス』のほか、『恋する遺伝子』 でも使われているので、とりあえず計20本ということになる。聞いたことのないような作品や日本未公開の作品も何本か含まれているけれど、ほとんどがかなり有名な作品だ。なかなかすごいものがある。
 スコセッシを始めとした数多{あまた}の優秀な映画監督たちが、自分の映画で使いたいと思った曲ばかりを集めてあるのだから、収録曲は当然いい曲ばかり。しかもゼムから90年代初頭までの曲がバランスよく配され、バラエティにも富んでいて、普通のベスト・アルバムと呼んでもいいような内容になっている。もしかしたらばこれまでにリリースされた2枚のベスト盤よりもおもしろいかもしれない。おかげで大半は耳に馴染んだ曲ばかりだというのに、やたらと繰り返して聴いてしまっている。
(Mar 24, 2007)