2023年11月の映画

Index

  1. SHE SAID/シー・セッド その名を暴け
  2. PLUTO
  3. 名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊

SHE SAID/シー・セッド その名を暴け

マリア・シュラーダー監督/キャリー・マリガン、ゾーイ・カザン/2022年/アメリカ/WOWOWオンデマンド

シー・セッド その名を暴け

 ニューヨークタイムズがミラマックスの創始者でハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの数知れぬセクハラ被害を暴いたという実話をもとにした作品。
 冒頭、キャリー・マリガン演じる主人公がトランプ大統領候補のセクハラ疑惑を追及して果たせず、出産のため休職して……みたいな流れになっていて、その部分が説明不足でいまいちよくわからなかった。あれ、これってハリウッドのプロデューサーを告発する話じゃないの?――って思った。
 その後、ゾーイ・サガンという女優さんが演じるもうひとりの主人公がハリウッドのセクハラ疑惑を追うことになり、そのパートナーとしてマリガンが復職したあたりでようやく話についてゆけるようになった。
 僕はこの事件をほとんど知らなかったけれど、被害者にはアシュレイ・ジャッド(『恋する遺伝子』)、ローズ・マッゴーワン(『プラネット・テラー』)、そしてグウィネス・パルトロウといった、僕も観たことがある映画の主演女優たちも含まれていたとのことで、そのうちジャッドは本人が出演している。パルトロウは声だけの出演だけれど、電話の声は本人らしい。彼女たちにしてみれば封印したままにして思い出したくもない過去だろうに。勇気をもって出演した彼女たちに敬意を。
 男性上位な芸能界の闇に果敢に立ち向かった女性たちの話ということで、監督も女性だし、新しい男女平等の時代の到来をつけるような秀作だとは思うのだけれど、いかんせん、セクハラを受けたり、パワハラで仕事を奪われた女性たちの証言から、クソ野郎の悪行をあぶりだして記事にするところまでを描いて終わるので、観終わったあとにすっきりと気分よくはなれない。悪党をやっつけた痛快さよりも、被害者の味わった苦しみが強く印象に残ってしまう。
 勧善懲悪をエンタメとして描いたりせず、淡々と女性たちの苦しみや悲しみをすくいあげている。良心的ではあるけれど、それゆえとても苦味の効いた一本。
(Nov. 19, 2023)

PLUTO

川口俊夫・監督/原作・浦沢直樹、手塚治虫/2023年/日本/Netflix(全8回)

 浦沢直樹が『鉄腕アトム』のエピソードのひとつである『史上最大のロボット』を大胆な解釈でリメイクしたマンガ『Pluto(プルートゥ)』のアニメ版。
 僕がこれまでシリーズもののアニメの感想をまったく書いていないのは、全編をきちんと観た作品がほとんどないからで、アニメは食事をしたり、酒を飲んだりしながら、ながらでだらだらと観るのが習慣になってしまっているので(それはそれで失礼な話だとは思うのけれど)、きちんと観てないものについて、つべこべ言っちゃいけないだろうと思ってのこと。
 この作品についてはあの浦沢直樹のマンガがアニメでどんな風に再現されるのか興味があったから、配信が始まってすぐ、それなりにちゃんと観たので、とりあえずなんか書いとかなきゃって思った。
 まぁ、とはいっても、書けることといったら、浦沢直樹がすごいのひとことなんですが。
 だってアトムにせよ、お茶の水博士にせよ、天馬博士にせよ、みんなちゃんとそれらしいのがすごい。アトムの物語世界が、浦沢直樹のあの絵のタッチでしっかり再現されているという、その事実にただひたすら感心してしまう。
 ぜんぜん覚えていなかったけれど、ウランの通う小学校の校長役でヒゲ親父が出てきたのにはびっくりだった(マンガ版にも出てましたっけ?)。あー、ヒゲオヤジじゃん! って。ひとめ見ただけでそれとわかる。画風は浦沢直樹のキャラなのにちゃんとヒゲオヤジになっている。すげー。
 アニメも気合が入っていて、CGをまじえた第一話冒頭の山火事のシーンとかすごいグレードが高くてよかったのだけれど、いざ物語が始まってゲジヒトの登場シーンになったら、いささか作画の質が落ちて、あれ?って感じになってしまった。
 ネトフリがバックについていても、やはり全編にわたって宮崎駿や庵野秀明ほどの作画の質を徹底するのは難しいということなのか……。
 僕があまりアニメを好まないのは、そういう作画に対する不満を感じたくないからのような気がする。マンガで読めるならばそっちの方がいいやって思ってしまう。マンガだと絵の粗さも作品の個性になるけれど、アニメだと手抜きに思えてしまう。
 まぁ、それでもこのアニメはいい出来なのではと思います。少なくてもこの作品にはデフォルメ三頭身キャラが出てこないのがいい(原作にないのだから当然か)。それだけで最近のアニメのなかではいちばん気持ちよく観られた。
 僕がアニメが好きになりきれないのは、自分がアニメーターだったら絶対にやりたくないと思う、マンガ直伝の安直なデフォルメ表現があたりまえのようにまかり通っている現状も大きいんだなと、これを観て思った。
 そういえば、最近のアニメには珍しく、主題歌のタイアップがないのも、ロック好きな浦沢直樹らしくていい。俺の作品にいまどきの若者の歌などつけてくれるなという頑固親父の声が聞こえてきそうだ。
(Nov. 19, 2023)

名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊

ケネス・ブラナー監督/ケネス・ブラナー、ティナ・フェイ/2023年/アメリカ/Disney+

名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊

 ケネス・ブラナー監督・主演による名探偵ポアロ・シリーズ第三弾となるこの作品は、シリーズきっての異色作だった。
 そもそも『ベネチアの亡霊』ってなにさ? 僕はそんなクリスティーの作品を知らない。
 原作は『ハロウィーン・パーティ』だというけれど、原作の舞台はベネチアじゃないよな? そもそも僕が知っている『ハロウィーン・パーティ』は嘘つきの女の子がバケツで溺死させられる話なんだけれども。
 この映画で殺されるのは中年女性の降霊術師じゃん!(演じているのは『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』でアカデミー賞を受賞したミシェル・ヨー)
 あまりに違いすぎだろー。
 意訳がすぎて、これをクリスティー原作と呼ぶのは間違いなんじゃないかってレベル。おかげでどういう事件なのかも、犯人が誰なのかもよくわからない。
 いや、終わってみれば犯人は原作と同じだったけれど、でも原作と違ってなぜその人が殺人を犯したのか、僕にはさっぱりわからなかった(酒を飲みながら観ていたせいかもしれない)。
 ほんと、なんなんだこの映画?
 ハロウィーンの夜のおどろおどろしい雰囲気を背景に殺人事件が起こるという映像作品としてのムードは決して悪くないんだけれど、これをしてクリスティー作品を名乗るのにはちょっと難ありではと思ってしまう。
 このシリーズはもとよりリミックス感が半端なかったけれど、今作においてはリミックスが過ぎて原型をとどめていない。いっそ原作とどこが同じかを探しながら観たら楽しいかもしれない。これはそんな作品。
(Nov. 19, 2023)