2020年3月の映画

Index

  1. マリッジ・ストーリー
  2. セルフメイドウーマン ~マダム・C.J.ウォーカーの場合~
  3. ノット・オーケー
  4. コンテイジョン

マリッジ・ストーリー

ノア・バームバック監督/アダム・ドライヴァー、スカーレット・ヨハンソン/2019年/アメリカ、イギリス/Netflix

 主演のふたりを筆頭にアカデミー賞で六部門にノミネートされ、そのうちのひとつでローラ・ダーンが最優秀助演女優賞を射止めたネットフリックス・オリジナル作品。
 『結婚物語』というタイトルに反して、内容はアダム・ドライヴァーとスカーレット・ヨハンソンが演じる舞台監督と女優の夫婦のあいだの離婚劇。
 当初は弁護士抜きで穏当に離婚手続きを済まそうといっていた二人だけれど、ひとり息子の親権をどうするかが問題だったのか、なぜだか奥さんがローラ・ダーン演じる弁護士を雇ったことから、話はどんどんややこしくなってゆく。
 あぁ、離婚って本当に大変なのねって。観ていると、どちらがどうというわけでもなく、主役ふたりへの同情心がわいてきてしまような作品だった。すんげーおもしろいって映画ではないけれど、内容はどうしようもなく切実。
 それというのも出演者全員の演技の素晴らしさに追うところが多いように思う。ほんと、アダム・ドライヴァーなんて、これまで観たことがないほどのいい演技をしている――って、まあ、これまでに僕が観たことのある彼の演技って、『スター・ウォーズ』限定なわけだけれど。カイロ・レンの役はなんだったんだってくらい、この映画の彼は素晴らしい。
 そういや、スカーレット・ヨハンソンは『アベンジャーズ』のブラック・ウィドウ役だから、この映画ってスター・ウォーズとアベンジャーズの主役級どうしの離婚劇なわけだ。そう思うと上手くゆかないのもさもありなんな感じ。
 監督のノア・バームバックは僕の知っている映画では『マーゴット・ウェディング』を撮った人だった。あれもなんだかいびつな印象の作品だったけれど、これもその点は同じ。もしかして家族の破綻を描くのが大好きな人なのかもしれない。でもってその手腕はこの作品では冴えわたっている。
 もしかして離婚を考えているアメリカ人にこれを観せたら離婚を思いとどまるんじゃないかって思ってしまような映画だった。
(Mar. 01, 2020)

セルフメイドウーマン ~マダム・C.J.ウォーカーの場合~

オクタヴィア・スペンサー、ティファニー・ハディッシュ/2020年/アメリカ/Netflix(全四話)

 黒人としてはアメリカ初の億万長者となったという女性企業家、マダム・CJ・ウォーカーの半生を描いた連続ドラマ。主演は『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』でアカデミー賞の助演女優賞を獲得したオクタヴィア・スペンサー。
 洗濯婦としての貧しい暮らしに苦しみ、脱毛にまで悩んでいた主人公のサラさんが、ヘア・サロンを営むアディーという女性(カルメン・イジョゴ)からヘアケアを受けて、豊かな髪とともに女性としての自信をも取り戻し、自らもこれを仕事にしたい!――と思い立ったところからドラマは始まる。
 ところがアディーさん(白人との混血ゆえの美貌が自慢)は、見た目がいまいちのサラを仕事仲間として受け入れず、ふたりの関係は破綻。傷ついたサラは独力でヘアオイルを配合して、自ら商売へと乗り出してゆく。
 以降、物語はこのサラとアディーのふたりの確執を軸として進んでゆく。
 サラは黒人にして女性という二重のハンディをものともせず、いくつもの障害を跳ね除けて立身出世してゆく。一方のアディーは白人譲りの美貌が頼りという昔ながらの価値観に縛られた存在としてサラとは対照的に描かれている。
 サラには若くして生んだレリア(ティファニー・ ハディッシュ)という娘さんがいて、最初の夫と死別したあとの再婚相手のCJ・ウォーカー(ブレア・アンダーウッド)という旦那もいる。あと彼女の事業を助けるランサム(ケヴィン・キャロル)という黒人弁護士がいて、そのあたりが主要キャスト。
 一話五十分で全四話だからさくっと楽しく観られたのはよかったけれど、その分ディテールの描きこみが足りない感はある。もっと重厚なドラマにできる素材を駆け足で描いてしまったような感じで、若干もったいない気がした。
(Mar. 29, 2020)

ノット・オーケー

ジョナサン・エントウィッスル監督/ソフィア・リリス、ワイアット・オレフ/2020年/アメリカ/Netflix(全7回)

 『このサイテーな世界の終わり』のファースト・シーズン前半の監督をつとめたジョナサン・エントウィッスルという人が手がけた新シリーズで、さえない高校生の女の子が制御不能の超能力に目覚めてしまって悩むというアメコミ原作の青春ドラマ。
 このドラマの主役シドニー・ノヴァクを演じるソフィア・リリスは、『IT~“それ”が見えたら、終わり』の紅一点ベバリーの子供時代を演じた女の子。
 その子がこのドラマではいきなり血みどろのドレス姿で登場する。この子はなんでいつもこんなに血まみれになっちゃうんだろうか。まあいいけど。
 物語はそんなタランティーノ的なシーンをちょい見せだけして過去へと戻り、彼女がどうしてそんな姿になるに至るかを、彼女のハイスクール・ライフを中心にしながら順を追ってコミカルに描いてゆく。
 本編に入ってからの描写はいたって温厚。セクシャルな描写も控えめだし、いたってまっとうな青春コメディ・ドラマって印象で安心して観ていられる。『このサイテーな世界の終わり』と同じく一話二十分だから、さくさく小気味よく話が進んで、あっという間に最終話にたどりつく。するとそこに予定調和的かつ衝撃的なスプラッター・シーンが待っていると。
 いやぁ、そうくるとは思わなかった。どうするんだろう、このつづき。
 セカンド・シーズンがあって当然って終わり方をしているんだけれど、結末があんまりすぎて、セカンド・シーズンはまったく違う世界観になってしまいそうな……。
 ここまでおもしろかっただけに、そこがちょっと不安。そんなファースト・シーズンだった。
(Mar. 29, 2020)

コンテイジョン

スティーヴン・ソダーバーグ監督/マリオン・コティヤール、マット・デイモン、ローレンス・フィッシュバーン/2011年/アメリカ/Netflix

コンテイジョン (字幕版)

 スティーヴン・ソダーバーグが九年前に監督した感染パニック映画。
 このタイミングだからこそ注目を浴びている作品なのだと思うけれど――だから観たんだけれど――これはあまりにもタイムリーすぎた。現状のコロナ騒動との類似が切実すぎて、観たことちょっと後悔した。
 グウィネス・パルトロー演じるビジネス・パーソンが出張先の香港で謎のウィルスに感染、帰国後に発症して、あっという間に死亡する(グウィネス・パルトロー、やたら損な役回り)。
 そこから始まるウィルス奇禍のてんまつを描いた群像劇で、マット・デイモンがパルトローの夫、マリオン・コティヤールとケイト・ウィンスレットがウィルスの調査にあたる医師、ローレンス・フィッシュバーンがCDC(疾病予防管理センター)の責任者、ジュード・ロウが事件を追うユーチューバーといった役どころ。
 そんなふうに主役級の俳優がわんさと出ていて、キャスティングはやたらと豪華なのだけれど、残念なことに内容が内容だけに、誰ひとり本来の魅力を発揮できていない気がした。疫病の前には人気俳優たちの魅力も無効ってことなのか。
 そういう意味ではこの映画の豪華キャストには宝の持ち腐れ感がある。どうせだったら無名の俳優ばかりを起用したほうが、なおさらリアリティが増して怖かったかもしれない――って、いやでも、これ以上怖くしてどうするって話もある。これでも十分悲惨。ウィルスこわい。
(Mar. 31, 2020)