2018年8月の映画

Index

  1. 007 スペクター
  2. マイティ・ソー
  3. マイティ・ソー バトルロイヤル
  4. ブラックパンサー
  5. アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー
  6. ゲット・アウト
  7. クリード チャンプを継ぐ男

007 スペクター

サム・メンデス監督/ダニエル・クレイグ、クリストフ・ヴァルツ、レア・セドゥ/2015年/イギリス、アメリカ/Amazon Prime Video

007 スペクター (字幕版)

 ダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドを演じる007シリーズの第四弾。
 最初の『カジノ・ロワイヤル』がおもしろかったからフォローしているこのシリーズだけれど、それ以降はこう、可もなく不可もなくって感じがつづいている。
 今作も個人的には正直いまいち。せっかく名優クリストフ・ヴァルツを悪役に起用して、モニカ・ベルッチ、レア・セドゥという美女ふたりをボンド・ガールに配しているのに、みんなそれほど魅力的とは思わなかった。
 そもそもダニエル・クレイグのボンドって、なんとなくストイックな印象があるので、そんな彼がふたりの美女といとも簡単にベッドインしちゃうって展開には、なんとなく釈然としないものがある。
 メキシコの死者の日のカーニバル──本当にあんなドクロだらけのお祭りなんですかね?――を舞台にしたオープニングのアクションは派手だけれど、派手すぎてリアリティがなくなっているのが残念。公衆の面前であんな国際問題になりそうな大暴れするスパイはいないでしょうよ。クライマックスだって、ワルサーPPKでヘリコプター撃ち落しちゃうなんて説得力がなさすぎる。そういうディテールの積み重ねが気分の高揚を阻害している。
 物語的にはこれまでの事件の背後にスペクターという悪の組織の存在があることを知ったボンドが単独でその謎を追ってゆくという話で、全体的に前の三作を踏まえた内容になっているのも、僕のように旧作の内容をよく覚えていない観客にとってはとっつきにくい要因になっている。
 前作でMの座を継承したレイフ・ファインズ、秘密兵器の発明家Q役のベン・ウィショー、秘書のマニー・ペニーを演じるナオミ・ハリスと、ボンドをサポートするまわりの脇役はみんないい味出していると思うんだけれど、ボンドやヒロインよりも彼らのほうが好印象って時点で、なにか違うんじゃないかって気がしてしまう。
 ということで、こんなことならいい加減、次回作は観なくてもいいかなって思ったら、次はダニー・ボイルが監督するなんて噂が……。それは観たいかも。
(Aug 15. 2018)

マイティ・ソー

ケネス・ブラナー監督/クリス・ヘムズワース、トム・ヒドルストン、ナタリー・ポートマン/2011年/アメリカ/Amazon Prime Video(レンタル)

マイティ・ソー (字幕版)

 あまりに『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の評判がいいので、夏休み特別企画として、その映画を含めて、マーベルで観てない旧作を配信のレンタルで一気に観てしまうことにした。ということでまず最初は『マイティ・ソー』から。
 マーベル作品のつねだけれど、ヒーローの出自を描いたシリーズ第一作目はやっぱりおもしろいなと。少なくても続編に比べると、ストーリーに無理がなくて好感が持てる。
 物語は父親から王国を追放されて地球に落ちてきたソーが、ナタリー・ポートマン演じる物理学者のヒロインと出会って恋に落ち、一度は失った力を取り戻す過程で、王座を継ぐ者としての自覚に目覚めてゆく──というような話。
 先に二作目を観てしまっているせいで、誰が黒幕かを知っていることもあり、物語自体の意外性はほとんどなかったけれど、それでもエージェント・オブ・シールドのコールソン(クラーク・グレッグ)やホークアイ(ジェレミー・レナー)が出てきたり、二作目以降はほとんど存在感のないソーの仲間の五人組──なんと浅野忠信がいる──が活躍していたりと、ディテールの部分でへーって思わされるところはけっこうあった。そういや、監督がケネス・ブラナーってのもちょっとした驚きだった。
 つづけて二作目の『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』も観直してみたのだけれど、そちらはこの一作目のあとに公開された『アベンジャーズ』からの流れを汲みすぎていて、いまいちこの作品の続編って感じがしなかった。まだ観てない人は絶対に『マイティ・ソー』→『アベンジャーズ』→『ダーク・ワールド』の順で観たほうがいいです。できれば僕もその順番で観なおしたいくらい。
(Aug 15. 2018)

マイティ・ソー バトルロワイヤル

タイカ・ワイティティ監督/クリス・ヘムズワース、トム・ヒドルストン、ケイト・ブランシェット/2017年/アメリカ/Amazon Prime Video(レンタル)

マイティ・ソー バトルロイヤル (字幕版)

 『マイティ・ソー』シリーズの第三弾──のはずなんだけれど。
 これをして三部作と呼ぶのはちょっと違うんじゃないかという気がする。なんたって、前の二作のヒロインだったナタリー・ポートマンが出てこないし、ソーの父親オーディン(演じるはアンソニー・ホプキンス)はなんだか『最後のジェダイ』のマーク・ハミルみたいになっちゃっているし。なにより全体的にやたらとコメディ・タッチだし。
 とにかく、続編というにはあまりに作風も世界観も違いすぎる。そもそも前の二作は主に地球が舞台だったけれど、今回はほとんどが宇宙での話だ。にもかかわらず、ハルク(マーク・ラファロ)が妙な形で登場して大暴れしていたりするし、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』と同じで、どちらかというとソーの本編からは外れた『アベンジャーズ』の最新作と考えたほうがいい作品だと思う。
 それにしてもほんと、ソーの故郷のアスガルドが滅びるほどの大事件が巻き起こるというのに、演出は終始コメディ・タッチ。とくに「バトルロワイヤル」という邦題の理由だと思われるジェフ・ゴールドブラム演じるグランドマスターという奇人が仕切る格闘場がらみの部分は徹底してコメディ。レッド・ツェッペリンの『移民の歌』を一種のテーマ曲として使っているのも、笑いを誘うためとしか思えない。
 旧作からユーモアは多かった気がしないでもないけれど、今回は笑いの質がこれまでと違って、あきらかな受け狙い。なんか違和感がすごかった。うちの奥さんも最初から「なにこの映画?」を連発していた。
 まぁ、ただ笑わすだけの映画でもなくて、ケイト・ブランシェット演じる死の女神ヘラが出てくるシーケンスはだいたいのところシリアスでカッコいい(さすがの貫禄)。クライマックスの「ラグナロク」のシーンの映像美とカタストロフも半端じゃない。見どころがたっぷりあるのは間違いないし。
 ということで、ソー三部作のなかではiMDBでもっとも評価が高いのも納得なんだけれど、でもこの作品の場合、そのへんてこりんな作風を受け入れられるかで評価が大きく分かれそうな気がする。僕個人はあくまで正統的だった一作目のほうが好きだ。『アベンジャーズ』のうちの一本としてなら、まぁありかもしれないけれど、『マイティ・ソー』シリーズの完結編と考えるとちょっとばかり疑問が残る──そういう作品に仕上がっていると思う。
 それにしてもサブタイトルは「ラグナロク」のほうが絶対にカッコいいし、ふさわしいと思うのに、わざわざ「バトルロイヤル」なんてさえない邦題をつけてしまう日本の配給会社のセンスって、ほんと、どうなってるんだろう。
(Aug 15. 2018)

ブラックパンサー

ライアン・クーグラー監督/チャドウィック・ボーズマン、マイケル・B・ジョーダン/2018年/アメリカ/iTunes Store(レンタル)

ブラックパンサー (字幕版)

 ブラックパンサーは『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』ですでに登場していたし、あの映画はキャプテン・アメリカ御一行様がブラックパンサーの故郷ワカンダに身を寄せるところで終わっていたので、この作品はその後を描く、とてもアベンジャーズ色の強い作品なるのかと思っていたら、ぜんぜん違った。それどころか、本編にはアベンジャーズのメンバーはまったく出てこない。たぶんエンディングのおまけ映像にひとり出てくるだけ。
 ということで、おそらくこれを観ないで『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』を観ても、特別困ることはないと思われる。誰これと思うキャラは出てくるけど、本筋を理解するうえではとくに問題なし。逆にアベンジャーズを知らないでこれを単体で観ても、なんの問題もなく楽しめる──そういう作品に仕上がっていると思う。最近のマーベル作品にしてはもっとも独立色の強い、一本しっかりと芯の通ったスーパーヒーロー映画だった。そこがまず素晴らしい。
 あと、この映画が特殊な評価を受けている理由のひとつは、ほとんどの要素が黒人だけで成り立っているから。監督も黒人ならば、キャストもほとんど黒人。めだった白人のキャストってCIAエージェント役のマーティン・フリーマンだけじゃないだろうか(なぜイギリス人がCIAの捜査官やってるんだか)。サントラを手がけているのも、ケンドリック・ラマーらの黒人アーティストだ。
 人種差別を訴える文芸映画ならばともかく、マーベルという大ヒットメーカーが仕掛ける純然たる娯楽超大作がほとんど黒人の手だけによって作られている。そこのところにある種のエポック・メーキングな価値があるのだろうと思う。
 まぁ、そんなふうに変に堅苦しく考えないでも、この映画は一個のエンターテイメント映画としてとてもおもしろい。アベンジャーズが絡まない分、ストーリーは直線的でわかりやすいし、アフリカの奥地に人知れず超文明を築いている王国があるって設定も意外性があっておもしろい。悪役のマイケル・B・ジョーダン──『クリード』でロッキーの後継者となった彼──も見栄えがよくて魅力的(体じゅうにあるボツボツはちょっと気持ち悪いけど)。
 ということで、どれもこれも演出過剰な感の強い最近のマーベル作品のなかにあって、もっともバランスのとれた良質な作品ではないかと思います。うん、おもしろかった。
(Aug 16. 2018)

アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー

アンソニー&ジョー・ルッソ監督/ロバート・ダウニー・ジュニア、クリス・ヘムズワース/2018年/アメリカ/iTunes Store

アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー (字幕版)

 ということで夏休みの特別企画、マーベル・コンプリート作戦の最後を飾るのが最新作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』。パッケージやレンタルより一ヶ月早く配信限定で公開されたのを購入した。
 新作映画をダウンロード版で買ったのはこれが初めて。嫁さんとふたりで劇場に観に行くのとほぼ同じ価格で手に入るんで、その後も繰り返し観られるんだったら、まぁいいかと思って買ってみた。
 いやしかし、この映画についてはなんといっていいやら……。
 内容的には『マイティ・ソー バトルロイヤル』のつづきから始まるんだけれど、いきなりあの映画の直後にこんな展開が待っているとは誰も思うまいという非情な展開で幕が上がる。
 メインとなるのは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の緑の女性ガモーラ(ゾーイ・サルダナ)の養父であるサノス──あっちの映画に出てましたっけ?(声はなんとジョシュ・ブローリン)──が最強のラスボスとして登場して、アベンジャーズの面々に過酷な戦いを強いるという話で、いままで接点のなかったアベンジャーズとガーディアンズが出会って行動をともにするようになるのがいちばんのポイント。アントマンとホークアイが出てこないだけで、あとのほとんどのキャラがなんらかの形で登場していると思う。
 でもその結果として、あまりに登場人物が多くなりすぎて、個々のキャラクターの印象はこれまでの作品でもっとも希薄。目立ってるのは、前作で失った最強ハンマーのかわりの武器を手に入れるために奮闘するソーくらいな気がする。キャプテン・アメリカとかブラック・ウィドウとか、なにしてたっけって感じ。
 でもまぁ話はとにかく派手。あと異常に刹那。冒頭でいきなりあの人がやられ、途中であの人が殺されて、おいおいマジかと思っていると、最後の最後にさらにとんでもない展開が待っている。
 えーっ、マジ??????
 観終わって呆然。この映画このあとどうすんだと、ほとんどの人が思うと思う。もしかして『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』をリアルタイムで観ていたら、こんな気分になるのかもと思ったら、うちの奥さんからまさにそうだと言われました。でも「なんじゃこれは?」感はあの映画よりさらにすごいと思う。いやはや、びっくりしました。
 あとで調べたらこの映画は最初から二部構成で企画されていたそうで、来年公開の続編でもって完結となるらしい。なんだそうか。そうとは知らなかったのでで、マジでびっくりしてしまった。
 あぁ、このつづきは公開されたらすぐ劇場で観ないではいられなさそうな……。
(Aug 17. 2018)

ゲット・アウト

ジョーダン・ピール監督/ダニエル・カルーヤ、アリソン・ウィリアムズ/2017年/アメリカ/Amazon Prime Video

ゲット・アウト(字幕版)

 黒人の青年が白人のガールフレンドの実家に呼ばれて怖い目にあう話ってんで、アカデミー賞の作品賞にもノミネートされていたので、さぞやおもしろいんだろうと思って観てみたのですが……。
 いやぁ、これは予想外の内容だった。心理的にじわっと怖い話かと思っていたら、終盤になって思いがけないど派手な流血沙汰が……。
 いやはや、なんとも後味の悪い話で、僕は個人的には苦手なタイプの作品。『ミザリー』とか『シャイニング』とか、スティーヴン・キングのあの手の作品に『トゥルーマン・ショー』的な似非SF感たっぷりの偽善的な胡散臭さと、タランティーノ的な血なまぐささを加えた感じのサイコ・スリラーとでもいえばいいんでしょうか? なんかいまいちジャンル分けの難しい作品だと思った。
 まぁ、ヒロインのローズを演じるアリソン・ウィリアムズはかわいいです。後半の話の流れでずいぶんとわりを食ってはいるけれど、前半は文句なしにかわいい。
 あと、月並みな感想だけれど、主人公の親友(リル・レル・ハウリー)がいいやつでよかった。
(Aug 17. 2018)

クリード チャンプを継ぐ男

ライアン・クーグラー監督/マイケル・B・ジョーダン、シルヴェスタ・スタローン、テッサ・トンプソン/2015年/アメリカ/Amazon Prime Video

クリード/チャンプを継ぐ男 (字幕版)

 ひとつ前の『ゲット・アウト』があまりに後味が悪かったので、黒人がふつうに活躍する映画で舌なおししたくて観た作品。ロッキーのライバル、アポロの息子がロッキーの指導を受けてプロ・ボクサーを目指すというボクシング映画。
 『ブラックパンサー』では悪役だったマイケル・B・ジョーダンが主人公で、監督もあの映画と同じライアン・クーグラー。そしてヒロインが『マイティ・ソー バトルロイヤル』でヴァルキリー役だったテッサ・トンプソンと、はからずも最近観た映画で知った名前がたくさん出てくる映画だった。
 物語は一旗あげたい素人ボクサーがひょんなことからチャンピオンに挑戦することになるというあたり、もろ『ロッキー』を踏襲した内容。ロッキーがアポロの息子を鍛えるってだけでもう普通にぐっときちゃう話なので、よほど下手をしないかぎり、間違いのない作品だと思う。クライマックスの試合はかなり少年ジャンプ的で、リアリティ・ゼロだったけど、まあよし。
 演出的にはところどころにスポーツ番組的なスーパーインポーズが入るのが現代風でおもしろかった。
 まぁ、ロッキー・シリーズをちゃんと観てない僕らは、「ミッキーって誰?」とか「ポーリーって?」とか思うこともしばしばだったので、できれば旧作をすべて観たあとに観るべきだったかなと思った。今年続編が公開されるそうなので、その前にロッキー・シリーズをすべて観ようかなと思ったりした。
(Aug 17. 2018)