2013年2月の映画

Index

  1. 猿の惑星:創世記(ジェネシス)
  2. 深夜の告白
  3. 脳内ニューヨーク
  4. ミッドナイト・イン・パリ

猿の惑星:創世記(ジェネシス)

ルパート・ワイアット監督/ジェームズ・フランコ、フリーダ・ピントー/2011年/アメリカ/WOWOW録画

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 ティム・バートン版の『猿の惑星』は、宇宙飛行士が地球だと思って帰還したのは、猿の支配する未知の惑星でした、という第一作の設定だけを踏襲して、独自のアレンジを加えたものだった。
 それに対して、今回の新作がベースにしているのは、地球がいかにして猿の惑星となったかという、その発端を描いてみせたシリーズ第四作、『猿の惑星・征服』。
 ただ、あちらが曲がりなりにも第三作を踏襲していたのに対して、こちらは純粋にここから始まる「猿の惑星」を描いてみせている。
 僕は『征服』を観たときに、「着想は悪くなかったのに、きちんとそれを作品にすることができなかった」というようなことを書いたけれど、この映画を作った人たちも、おそらく同じような感想を持ったんじゃないかと思う。ここでは最新のCG技術と仕切り直してゼロからのスタートとすることで、旧作の欠点を見事に克服してみせている。
 旧作では着ぐるみのサルが普通のサルには見えないことが欠点のひとつだった。また、シナリオとしてサルたちが集団で進化する理由づけが上手くできていなかった。このふたつが最大の欠点だと僕は思った。
 それを今回は、前者を最新のCG技術できちんとサルらしく描き──まぁ、実写と比べると、いまだに若干のぎこちなさは否めないけれど──、シナリオについても、バイオ科学が発達した現代ならではの設定で、サルの進化と人類の滅亡をあわせて説明してみせている。ここには数多{あまた}のネタ切れゆえの旧作リメイクではない、「いまだからこそ描ける猿の惑星」がちゃんとある。そこが素晴らしいと思った。
 まぁ、最終的にはサルに人間が支配されてしまうという話なので、観ていてやや感情的に複雑な気分になってしまうのが難点かな……と思わないでもないけれど──そういう意味では人間たちのドラマにもう少し奥行きがあると、なおよかった──、それでも基本的にはいい出来の作品だと思う。
(Feb 11, 2013)

深夜の告白

ビリー・ワイルダー監督/フレッド・マクマレイ、バーバラ・スタンウィック/1944年/アメリカ/WOWOW録画

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 ビリー・ワイルダーの初期のサスペンス・ミステリの傑作にして、なおかつレイモンド・チャンドラーがワイルダーと共同で脚本を手掛けているってんで、一度は観ておかないといけないと思っていた作品。
 でもこれ、僕にはいまいち。悪女の色気に負けた保険屋が、仲間を裏切って保険金詐欺を働くという話で、サスペンスとしてはなかなかながら(殺人のあとで車が動かないというあたりのハラハラさせ方が上手い)、ミステリとしてみると、後続の『情婦』のような意外性はないし、ワイルダーお得意のユーモアも控えめで、あまり楽しめなかった。
 これ、あらかじめ俳優の経歴をチェックしちゃったのが、よくなかったかもしれない。
 主役のフレッド・マクマレイという人は、のちに『アパートの鍵貸します』でシャーリー・マクレーンの浮気相手をつとめる人で、あそこでの憎まれ役のイメージが強すぎて、ここでの色男ぶりには「なにカッコつけえてやんでえ」と言いたくなるものがあるし、なにかと「ベイビー」と連発するのも、いまの感覚からすると滑稽に思えてしまう(もしやそれこそがハードボイルドの巨匠の貢献?)。
 ヒロインのバーバラ・スタンウィック──『群衆』のヒロインだったらしいけど、記憶なし──は前髪が変で、あまり好みでない(当時の最先端ファッションだったのかもしれないけれど。あと、低い声が色っぽいといえば、色っぽい)。
 饒舌な保険調査員を演じたエドワード・G・ロビンソンという人はいい味を出しているけれど──『キー・ラーゴ』でギャングのボスを演じていた人らしい──、いくら身内の犯罪だからって、あのくらいの詐欺を見破れないのでは、敏腕調査員の名が泣くでしょう。被害者が足を骨折したって聞いた途端、俺でさえ、そりゃまずいだろうと思ったくらいなんだから。
 ということで、All Movie Guide では五つ星の傑作との評価ながら、個人的にはそこまで入れ込めませんでした。残念。
(Feb 11, 2013)

脳内ニューヨーク

チャーリー・カウフマン監督/フィリップ・シーモア・ホフマン、サマンサ・モートン、ミシェル・ウイリアムズ/2008年/アメリカ/WOWOW録画

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 『マルコヴィッチの穴』と『エターナル・サンシャイン』で強烈な印象を残した脚本家、チャーリー・カウフマンが自らメガホンをとった初監督作品。……ということで要注目の一作ではあったのだけれど。
 僕としてはこれ、どうにもおもしろくなかった。睡眠不足の日に観たので、不覚にも途中でうとうとしてしまった。
 創作に悩んだ舞台監督がみた長大なる白昼夢……とでもいった内容のこの作品は、これまでのカウフマン作品と同様、アイデンティティーの喪失がメインテーマとなっている。自我とはなんぞやという問題を、奇抜な着想で極上のエンターテイメントに仕立ててみせることこそ、カウフマンの真骨頂。過去の傑作ではそうした文学的な命題が難しくなりすぎず、エンターテイメントの要素として見事にはまっていた。
 でも、この作品ではそれが中途半端に文学よりに流れて、曖昧な難解さに帰着している。そう、印象的には『アダプテーション』に近いものがある。
 あれも創作にゆき詰まった脚本家(カウフマン自身)を自虐的なネタにした作品で、出来はいまいちだった。どうもカウフマンという人は、調子がいいときには最高の傑作をものにするけれど、そうでないときには自虐的な方向へ流れて、あまりいい仕事ができていない気がする。
 まぁ、劇場がわりのだだっ広い倉庫が、しだいに都市の景観を備えてゆき、あっという間に荒廃してゆくという展開の壮大さは一見の価値があるという気がしないでもないけれど、その反面、無駄に下ネタ(エロではなく、もろシモのほう)が多いのは、せっかくの文学性を損なっていると思う。エンタメに徹するのか、文学的苦悩を追求するのか、どっちつかずで、どうにも方向性がはっきりとしないのが欠点じゃないだろうか。
 カウフマンの才能を見込んでだろう、なまじキャスティング(とくに女優陣)がとても豪華なだけに、なおさら残念な作品だった。
 まぁ、頭がもっとはっきりしたときに観たら、また印象が変わるかもしれないので、これはいずれ見直すことにしたい。
(Feb 19, 2013)

ミッドナイト・イン・パリ

ウディ・アレン監督/オーウェン・ウィルソン、マリオン・コティヤール、キャシー・ベイツ/2012年/アメリカ/WOWOW録画

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 この作品に関しては、まーったくなにも知らないで観はじめたので、序盤にようやく物語のコンセプトがあきらかになった時点で、その思わぬ内容にびっくり仰天。あまりに予想外の展開に、なんだそりゃー、って大笑いしてしまった。ウディ・アレン、おもしろすぎ。
 物語は小説家をめざしている売れっ子の脚本家が、婚約者の両親とともにパリに遊びにきたという設定から始まる。
 いや、正確には、いまさらウディ・アレン映画でしか見られないだろうって、昔ながらの黒無地のオープニング・タイトルがあり、そのあとにスタンダードなジャズ・ナンバーを聴かせながら、花の都パリの美しい風景をこれでもかと見せつける長めの導入部があって、そのあとようやく本編に突入する。
 失われた世代の作家たちに傾倒している(らしい)主人公(オーウェン・ウィルソン)は、文豪らが過ぎし日を過ごした花の都パリにすっかり魅了され、この街に住みたいと思うほどなのだけれど、資産家の娘であるフィアンセ――ガイ・リッチ―版『シャーロック・ホームズ』の一作目でヒロインを演じたレイチェル・マクアダムス(おおっ、なるほど)――はそんな彼のロマンを理解せず、なにバカなこと言ってんのよって態度。彼女の友人である気障男も登場して、はなからもう、このふたりは上手くいかないんだろうなぁ……と思わせる。
 物語はそんな二人がある夜、別行動をすることになったところから、意外な展開を見せる……のだけれど。僕を心底びっくりさせたその展開については、やはり知らないで観たほうが楽しいと思うので、ここから先は書かない。
 ──とはいっても、アカデミー脚本賞をとったそうなので、すでにすごく有名な話なんだろうって気もする。俺はなぜ知らないんだって、そっちのほうが不思議かも。それに、二十世紀の英米文学や美術について、ある程度の知識がないと、楽しさ半減って話かもしれない。でも逆に、その辺に思い入れのある人ならば、大笑い間違いなしって展開。
 いやー、楽しい。ウディ・アレン、最高。こういうのを観ると、やっぱ映画もいいなぁと思う。
(Feb 19, 2013)