2012年3月の映画

Index

  1. ドアーズ/まぼろしの世界
  2. パティ・スミス:ドリーム・オブ・ライフ
  3. JOY DIVISION

ドアーズ まぼろしの世界

トム・ディチロ監督/2009年/アメリカ/WOWOW録画

ドアーズ / まぼろしの世界 [DVD]

 このドアーズのドキュメンタリーは、けっこう出来が微妙。なぜって純度100%のドキュメンタリーではないから。
 この映画の冒頭には、ジム・モリソンらしき男が交通事故を起こして大破した車からよろよろと抜け出し、人の車を盗んでドライブをつづける、というあきらかなフィクション映像がフィーチャーされている。彼が運転するラジオから流れてくるのは、ジム・モリスンの死亡ニュース。どうやらこの映画はこの部分で、ジム・モリスンは実は死んでないかもしれないんだぞ、ということをほのめかしているらしい。
 「らしい」なんて書くのは、その辺のことがはっきりと描かれていないから。僕が寝ぼけて見逃したのでなければ(この日は3本のドキュメンタリーをつづけて観て、このころにはいい加減、集中力を欠いていたので、その可能性もなきにしもあらずだけれど)、この映画の中では、ジム・モリソンの死亡に関しては、いっさい説明されていない。
 その部分をあいまいにして、なおかつ偽モリスンの映像をフィーチャーすることで、ヒーローの死を謎のままにしておこう……という演出意図なんだろうか。
 なんにしろ、僕はそこが気に入らなかった。本物と偽者の映像が一本の映像のなかで混ざって出てくるという構造にすっきりしない。ドキュメンタリーなのに、いきなり偽物を見せられて喜ぶ人はいないと思う。1時間半と短めの映画だけに、そんな余計な映像を見せているひまがあるならば、もっとドアーズを見せてくれと言いたくなる。
 ジョニー・デップがナレーターを務めているってんで話題になったり(言われてみないとわからない)、フィクションが盛り込まれていたり。この映画はドキュメンタリーにしては、作り手の作為が強く出すぎていると思う。そこが鼻について、僕はいまいち楽しめなかった。
 ドアーズの貴重な映像をまとめて見られる作品だけに、余計な雑音が入った感じがして、どうにももったいない。
(Mar 06, 2012)

パティ・スミス:ドリーム・オブ・ライフ

スティーヴン・セブリング監督/2008年/アメリカ/WOWOW録画

パティ・スミス:ドリーム・オブ・ライフ (デラックス・エディション) [DVD]

 このパティ・スミスのドキュメンタリーも、ファンでない身としては微妙な内容。
 少なくても彼女の音楽キャリアを総括するような作品ではないし、ライブ・シーンも少ない。映像もモノクロ中心。それも古いからそうなのではなく、意図的にモノクロで撮った最近の映像が中心。音楽ドキュメンタリーというよりは、むしろ、パティ・スミスという女性の半生を、本人の問わず語りにより浮かび上がらせるような作品になっている。
 ということで、これを見てもパティ・スミスという人がロック・シーンでどんな偉業を成し遂げたかはわからない。そもそもどんなミュージシャンなのかも、よくわからない(少なくてもギターは上手くなさそうだ)。映像は90年代以降のもの、それもこの映画のために撮影されたプライベート・ショットが中心で、ニューヨーク・パンク時代のものはほんのわずかだし。たまのライブ・シーンも断片的だし。
 ということで、パティ・スミスのコアなファンや、彼女の人となりを知りたいという人には興味深い作品なのかもしれないけれど、僕のように彼女に詳しくない人間が音楽的な関心だけで見るにはいささか肩透かしを食う内容だった。
 珍しいところでは、R.E.M.のマイケル・スタイプが彼の母親とともに楽屋を訪れているシーンとかがあって、おっと思う。
(Mar 07, 2012)

JOY DIVISION

グラント・ジー監督/2006年/イギリス、アメリカ/WOWOW録画

JOY DIVISION (デラックス・エディション) [DVD]

 前の2本が期待していたのと違っていたのに比べると、これはどんぴしゃ。まさにこれだ、これ、こういうのが観たかったという。ロック・バンドの音楽ドキュメンタリーとして、僕が期待している通りの内容。ジョイ・ディヴィジョンというバンドの功績を、当事者たちへのインタビューや当時の映像をつないで浮かび上がらせてみた好作品。
 インタビューの中心となるのは当然、イアン・カーティスの死後にニュー・オーダーとして再出発したバーナード・サムナーとピーター・フックということになるのだけれど(ドラマーのスティーヴン・モリスという人も出ているけれど、失礼ながら僕は知りませんでした)、このふたりの性格の違いが映像に滲み出しているところがおもしろい。いかにも真面目で几帳面そうなバーナード・サムナーに対して、ピーター・フックは豪快な飲んだくれ親父って感じ。これを見ると、現在ニュー・オーダーの再結成問題をめぐってふたりの関係が泥沼化しているというのもわかる気がする。
 この映画はそんな彼らへのインタビューをもとに、ジョイ・ディヴィジョンの短い活動期間をマンチェスターの復興というもう一つの物語に重ねあわせて語ってゆく。
 70年代末にはすっかり衰退しきっていた工業都市マンチェスターがふたたび現在のような活気を取り戻したのは、ポスト・パンクの音楽性をいち早く打ち出したジョイ・ディヴィジョンの革新性──とそれにつづくマッドチェスター陣の活躍──のおかげだっ! と言い切ってしまうビッグ・マウスぶりもいい。それでこそロックだ。
 ドアーズのやつと違って、イアン・カーティスの死についても正面から語られているし、演出として差し挟まれる映像もスタイリッシュで気が効いているし、もう文句なしの内容。こういう音楽ドキュメンタリーに関しては、不思議とイギリス向かうところ敵なしの感がある(単に僕の趣味にあうというだけって話もある)。
 僕はジョイ・ディヴィジョンってイアン・カーティスの低い声が好みでないため、まともに聴いたことがないんだけれど、これを観たらちゃんと聴かないといけない気がしてしまった。そう思わせるのも、このドキュメンタリーが優れた作品である証拠だと思う。
(Mar 07, 2012)