2010年8月の映画

Index

  1. レイチェルの結婚
  2. ある公爵夫人の生涯
  3. 天使と悪魔
  4. ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
  5. ニュールンベルグ裁判
  6. パリ、ジュテーム
  7. プライベート・ライアン
  8. ホーホケキョ となりの山田くん
  9. ゲド戦記
  10. 猫の恩返し
  11. 借りぐらしのアリエッティ

レイチェルの結婚

ジョナサン・デミ監督/アン・ハサウェイ、ローズマリー・デヴィット/2008年/アメリカ/BS録画

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 『羊たちの沈黙』(いいかげん観ないとなぁ……)のジョナサン・デミ監督によるドキュメンタリー・タッチの家族劇の秀作。
 この映画はアン・ハサウェイ演じる主人公のキムが、姉レイチェル(ローズマリー・デウィット)の結婚式に出席するため、病院を一時退院するところから始まる。
 この人は十代から重度の薬物依存で、わけあって今なお入院中だという設定。一家のトラブル・メイカーの帰還ってことで、お姉さんの結婚式の準備でおおわらわの実家では、腫れものに触るような扱いを受ける。でも、話の経過とともにこの一家には悲しい過去があり、キムだけが悪いってわけでもなさそうなことがわかってくる。
 また、お姉さんの結婚式ってのがちょっと変わっている。なぜだかウェディング・ドレスがサリー(インドの民族衣装)だったりするし、相手はハワイ在住の黒人ミュージシャンで、集まってくる知人もミュージシャンが多く、バラエティ豊か(なかにはアジア系の人もいる)。結婚式という晴れの場にまつわる幸福感やあわただしさは世間共通ながら、そのディテールがなんとなく普通じゃない。
 でも、その普通じゃなさに関してはとくになんの説明もない。まあ、たまたまちょっと変わっているけれど……くらいの感じであたり前のように話は進んでゆく。結婚式に到るまでのさまざまなエピソードをハンド・カメラで追ってゆくその演出には、まるでドキュメンタリーを観ているかのようなリアリティがあって、知らぬうちにどっぷりと映画のなかに引き込まれてしまった。これはなかなか見事な出来だと思う。
 まあ、全編がドキュメンタリー・タッチな分、最近の映画にしては映像の美しさに息をのむようなシーンはまったくないけれど、その分は演出で十分にまかなえている。とくに印象的だったのがラスト・シーン。朝いちで屋敷を出てゆく妹を見送ったレイチェルが、庭でジャム・セッションをしている新郎たちの姿を遠巻きに眺めているそのうしろ姿を長回しで撮ったエンド・クレジットは素晴らしいと思った。
(Aug 22, 2010)

ある公爵夫人の生涯

ソウル・ディヴ監督/キーラ・ナイトレイ、レイフ・ファインズ/2008年/イギリス/BS録画

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 キーラ・ナイトレイが実在した十八世紀のイギリス公爵夫人を演じた歴史映画。
 彼女が演じるデヴォンシャー公爵夫人ジョージアナ・キャヴェンディッシュは、若くして公爵に嫁ぎ、社交界のファッション・リーダーとして活躍する一方で、政治にも大きな関心を示した進歩的な女性。ただし夫である公爵(演じるのはレイフ・ファインズ)は、後継ぎ息子が欲しいというだけの理由で彼女をめとった愛のない人だったため、家庭生活では不遇を{かこ}っている。
 そんな彼女が不幸な身の上のエリザベス(ヘイリー・アトウェル)という女性と親しくなる。住む家にも困った彼女をジョージアナは自分たちの屋敷に居候させたるのだけれど、当然という感じで公爵がその女性に手を出して三角関係に……。さらにはそんな状況に傷ついた彼女も昔なじみの若き政治家に身を任せ、ついにはどろどろの四角関係に……という、漠然とした印象からすると 『エイジ・オブ・イノセンス』 のイギリス版というか、なんとなく昔の昼ドラマのような映画。
 歴史ものだけあって衣装やセットは凝っていてとても綺麗だけれど、物語としてはやや説得力不足というか、やや展開が平坦な気がした。
 なにより弱点だと思うのは、物語において大きな意味をもつ侯爵夫妻とエリザベスの三角関係に、いまいち説得力がないこと。僕には、なぜジョージアナが自宅に招くほどにエリザベスを信用するようになったのかが、よくわからなかった。
 だって仮にも一度は公爵が口説こうとした女性ですよ? 一緒に生活するようになったら、公爵が彼女を放っておかないのはあきらかだ。もともとは彼に口説かれても落ちない芯の強い女性だったのが、一緒に暮らすうちに……というような裏事情があったのかもしれないけれど、僕にはそこんところは読みとれなかった。少なくてもこの映画のエリザベスは、無条件に信頼を寄せてあたり前と思うほど、魅力的な女性には見えない。
 この三人の──というか、結局はジョージアナとエリザベスの──愛憎なかばする関係がもう少ししっかり描けていれば、もっといい映画になっただろうと思う。そこんところがちょっとばかり残念。
(Aug 22, 2010)

天使と悪魔

ロン・ハワード監督/トム・ハンクス、アイェレット・ゾラー/2009年/アメリカ/BS録画

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 『ダヴィンチ・コード』 のロバート・ラングドン教授を主人公にした劇場版シリーズ第二弾(ただし原作ではこれが第一作)。
 原作を読んだときに「ずいぶん映画向きの派手な話だなぁ」と思ったものだけれど、予想どおりの派手な映画に仕上がっている。わずか半日足らずのあいだに次々と史跡にまつわる謎々を解き明かしながら、ヴァチカンを破滅の危機から救うというローラーコースター・ムービー。
 基本的な話の流れはだいたい原作通りだと思うけれど、ディテールをいくつかいじってあった。小説では最初の犠牲者はヴィットリア(アイェレット・ゾラー)の父親のはずが、ここではほかの人になっているし、クライマックスでラングドン教授がヘリコプターに同乗する展開もはしょられている。
 まあ、そんな風にいくぶんディテールに手は加わっているけれど、基本的な印象はほぼいっしょ。で、小説で読んだときに感じた強引さは映画でも変わりなし。というか、逆に映像化したことでさらに強調されてしまっている気がしないでもないけれど──なんたって、1時間ごとに謎を解きながら4人の枢機卿を助けようとするってプロットがめちゃくちゃ強引だ──、あまりに力任せなうえにあわただしくて、怒っている暇がない。これぞまさにローラーコースター・ムービーって感じ。ただし、仮にも歴史を下敷きにしているせいか、『ダイ・ハード』 なんかと比べると、生真面目すぎて笑えないのは欠点かなと(古文書の保管室をぶっ壊したりするくだりは、ある意味じゃユーモラスだけれど)。
 まあ、なんにしろ一見の価値ありというか、一回観れば十分というか。どっちともとれる派手な娯楽映画だった。
(Aug 22, 2010)

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

ポール・トーマス・アンダーソン監督/ダニエル・デイ=ルイス、ポール・ダノ/2007年/アメリカ/BS録画

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 この映画、監督は知らない人だし、主演のダニエル・デイ=ルイスはとくに好きな俳優でもないし、綺麗な女優さんが出ているでもないし、石油に関する話にもまったく興味はないしで、なにひとつ惹かれる要素のない作品だった。
 それでも、その年のアカデミー賞では 『ノーカントリー』 『フィクサー』 『つぐない』 『ジュノ』 という素晴らしい作品群と賞を争っている。僕個人としては好きな作品ばかり。ならばこれもきっといい出来なんだろうと思って、とりあえず観ておくことにした。そしたら、やっぱりこれもすごかった。
 とにかくダニエル・デイ=ルイス演じる主人公の人物像に得体の知れないすごみがある。たまたま石油を掘りあて、楽してひと山あてた石油成金なんて、そんな生やさしいイメージとはかけ離れている。石油を掘って一旗揚げること、ただそれだけに病的な執着をみせ、それ以外のことはなにひとつ顧みない。石油を掘ることに生涯をささげてしまった結果、それ以外のすべてを失ってしまった主人公の悲しくもすさまじい生きざまには、なんといっていいかわからないくらいの迫力がある。
 二十世紀初頭の埃っぽいアメリカ西部を舞台に、石油に人生をかけた男のいびつな人生をドライな語り口で描いた秀作。音楽の使い方も個性的だし、あっけにとられるような凄惨なラスト・シーンにはアメリカ映画の伝統を感じさせるテイストがあると思う。
 話としてはいい話じゃないけれど、映画としてはかなりいい映画だった。
(Aug 23, 2010)

ニュールンベルグ裁判

スタンリー・クレイマー監督/スペンサー・トレイシー、バート・ランカスター/1961年/アメリカ/BS録画

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 第二次大戦後に実際にあったドイツでの戦犯裁判の模様を映画化した作品。
 なんでもタイトルにもなっているニュールンベルグ裁判は東京裁判とならんで有名な戦犯裁判なんだそうだけれど、勉強が足らない僕はそんなことはつゆ知らず。この映画を観ようと思ったのは、法廷劇だからという、ただそれだけの理由だった(理屈屋なもので、好きなんです、法廷劇)。
 ただ、これはさすがに戦争犯罪を裁くというだけあって、ふつうの法廷劇とはやや毛色が違った。この裁判で裁かれるのは、ナチの独裁政権のもとで働いていた判事たち。戦時中にナチに都合がいい不当な判決を下してきた彼らが、個人の罪を問われるべきかが焦点となる。
 一般的な法廷劇は被告の有罪(もしくは無罪)をいかにして証明するかというのが主題になることが多いけれど、この映画の場合は「被告たちの行いは犯罪か否か?」だ。しかも、裁く側にしても同業者を裁くことになるわけで、ある意味では裁判制度というもののあり方を問うような部分もある。要するにとても難しい裁判なのだった。
 おかげで判事の引き受けてが見つからず、スペンサー・トレイシー(キャサリン・ヘップバーンの旦那さんですよね。僕は初めて見るので、おおっ、この人がと思った)演じる主人公はアメリカの片田舎から大抜擢されたという話になっている(実話か脚色か知らないけれど)。苦渋の選択を迫られるこの人の渋い演技がとてもいい。さすが名優。
 映画の作りとしておもしろかったのは、最初はドイツでの裁判ということで、被告人らの発言に英語の同時通訳がついていて、へぇー、この時代の映画にしては珍しく現実的だなと思っていたら、ほんの少しあとからはなんの説明もなく全部英語になっていた。とりあえず発言する人がヘッドフォンをつけるのが「ここでは同時通訳が入っています」というエクスキューズらしい。すごい暗黙の了解でちょっとおかしかった。
(Aug 24, 2010)

パリ、ジュテーム

ジョエル&イーサン・コーエン、ガス・ヴァン・サント監督ほか/2006年/フランス/BS録画

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 コーエン兄弟が参加しているというので観た秀作オムニバス映画。
 この作品のポイントは以下の3点。
 ひとつめは、すべてがパリを舞台にした話であること。東京23区というように、パリにも20区があるんだそうで、この映画ではそのうち18区を舞台にしたショート・エピソード(それぞれ5分前後の短編)で構成されている。要するに花の都パリの名所案内のような側面のある映画なのだった。どの映画も陰影ある映像がきれいで、パリという大都市の魅力を見事にすくい取っている。観ていると出不精の僕でもなんとなくパリに行ってみたい気分になる。
 ふたつめのポイントは参加している監督が世界中から集まってきていること。
 僕の知っている人で言えば、お目当てのコーエン兄弟やガス・ヴァン・サント、『サイドウェイ』 のアレクサンダー・ペインらのアメリカ人のほか、『ベッカムに恋して』 のインド系イギリス人女性監督グリンダ・チャーダ、『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』 のアルフォンソ・キュアロン(メキシコ人)などが参加している。
 その他にもご当地フランス人は当然として、ブラジル人、オーストラリア人、スペイン人、日本人、南アフリカ人、カナダ人、ドイツ人が名を連ねている(日本からは諏訪敦彦という人が参加)。よくぞこれほどまで世界じゅうから映画監督を集めてきたもんだと、そのことだけでも十分に感心してしまう。
 で、最後のポイントは、そんな風に監督だけでなく、参加している俳優陣もかなり豪華なこと。マリアンヌ・フェイスフル、スティーヴ・ブシェミ、ジュリエット・ビノシュ、ウィレム・デフォー、ニック・ノルティ、マギー・ギレンホール、イライジャ・ウッド、オルガ・キュリレンコ(最新ボンド・ガールの彼女)、ナタリー・ポートマン、ジーナ・ローランズといった主役級の人たちが、わずか数分の出番のために集まっていて、すごいのひとこと(僕が知らないだけで、ほかにも有名な人がいるのかもしれない。日本の諏訪さんの作品にジュリエット・ビノシュとウィレム・デフォーが出演しているってのも、なにげにすごい)。
 ひとつひとつの話は短いけれど、けっこう味わいのある話が多くて、これはとてもいい映画だと思った。なかではイスラムの女の子に恋をする青年の話(監督はグリンダ・チャーダ)が好きだ。ガス・ヴァン・サントのやつも落ちが効いていていい。
 ちなみにあまりに作品数が多いので、お目当てのコーエン兄弟の作品がどれだかわかるか心配だったんだけれど、いざ観てみたら、すべてちゃんと最初に作品のタイトルとともに監督のクレジットが入っていた。でもコーエン兄弟の場合、もしそれがなくても一発で「あ、これだ」とわかったと思う。なんたって主演がスティーヴ・ブシェミだから。なおかつ、ほかがすべて愛をテーマにしているのに対して、彼らの作品はどちらかというと暴力が主題だし。これしかありえないって感じでおかしかった。
(Aug 25, 2010)

プライベート・ライアン

スティーヴン・スピルバーグ監督/トム・ハンクス、マット・デイモン/1998年/アメリカ/BS録画

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 何度も書いているように、僕は戦争映画が好きではないんだけれど、これはスピルバーグの代表作のひとつだし、親しい友人たちからも「傑作」だと聞かされていたので、はやり一度くらい観ておくべきなんだろうなぁと思っていた。で、ようやく観てみれば、なるほど。こりゃ否定できないや。好き嫌いは別として、まごうことなき傑作だった。
 月並みだけれど、まずは冒頭のノルマンディー上陸作戦のシーンのド迫力、これがはんぱじゃない。まるで実際に自分がその戦場にいるかのような臨場感が味わえる。べつにこんなもの味わいたかないぜって思うような壮絶なやつが。
 ビュンビュンとライフルの{たま}が飛びかい、迫撃砲の弾丸が炸裂し、不運にもその犠牲となった仲間の手足や内蔵が飛び散る。味方の流した血で、浜辺が文字通りの血の海となる。そんな壮絶で悲惨きわまりない現代の戦場のあり方をこの映画は疑似体験させてくれる(したかぁないけれど)。実際の戦闘がどれほど怖いものか、そしてそれを生き延びた戦士たちの勇気とはどういうものかを垣間見させてくれる。「戦争を知らない子供たち」である僕らはまったく知ることのない、圧倒的な暴力がそこにはある。
 でも、いかに戦闘シーンがすごかろうと、それだけでは名画と呼ばれやしないだろう。この映画にはその迫真の戦闘シーンに劣らぬ、素晴らしくも苦いドラマがある。マット・デイモン演じるライアン一等兵の勇敢さは、死ななくていいはずだった人たちまでをも死に追いやる。いっぽうで平和主義の兵士アパムがみせた温情もまた、皮肉なことに彼の仲間の命を奪うことになる(途中で見逃してやったドイツ兵がクライマックスに再登場して重要な役割を果たすシナリオが見事)。彼が自らの臆病さのせいで、救えたはずの仲間を見殺しにしてしまうという展開が、やりきれなくもすごい。
 勇敢な兵士も利口な臆病者も戦場では同じように多くを失う。それが戦争というものだって、この映画は教えてくれている。いやはや、まいりました。
(Aug 25, 2010)

ホーホケキョ となりの山田くん

高畑勲・監督/声優・朝丘雪路、益岡徹/1999年/日本/レンタルDVD

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 夏休み最後の家族サービスってことで、『借りぐらしのアリエッティ』 を観にゆくことになったので、ならばこの機会に見逃している過去のジブリ作品──というのは、要するに宮崎駿氏以外が監督をつとめた最近の作品──を一気に観ておこうって気になった。ということで、まずは99年のこれから。
 いやしかし、僕は正直いって 『火垂るの墓』 の昔からこのかた、高畑勲という人の作品をおもしろいと思ったことがない気がするのだけれど、やはりこれも例外じゃなかった。手書き風・水彩画タッチの動画はアニメとして技術的には高度なんだろうし、それ自体はいい味だしているのはわかるんだけれど、こと一編の映画としてはまるでおもしろくない。作品の質に不満があるのではなく、そのセンスがあわない。いつもそう。
 なにより残念なのは原作にある毒気が抜けてしまっていること。作り手が年配の男性だからなのか、父親のたかしが不必要に目立ちすぎ(逆にののちゃん目立たなさすぎ)。中年の悲哀を感じさせるようなエピソードばかりが目立ってしまっていて、いしいひさいちの原作にある、あっけらかんとした笑いはまったく抜け落ちている。
 駄目なところだらけの山田家だけれど、その駄目さ加減をあっけらかんと笑い飛ばしてみせるところ──それこそ家長の権威なんか知ったもんかという調子で、まったく悲哀の「ひ」の字も感じさせずに──が原作の魅力だと僕は思う。いまの過保護な日本には珍しい、読み手に媚びないその姿勢が、よくもわるくも 『ののちゃん』 の魅力だと思っている。
 この映画にはそういう感覚がこれっぽっちもない。それどころか、まるで正反対を向いている気がして仕方ない。「なるようになる」と全員で 『ケ・セラ・セラ』 を合唱して終わるエンディングのセンスなんて、ずれまくりもいいところだと思う。言っちゃ悪いけれど、こっぱずかしくて見ていられなかった。
(Aug 27, 2010)

ゲド戦記

宮崎吾朗・監督/声優・岡田准一、菅原文太/2006年/日本/レンタルDVD

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 ジブリ・コンプリート計画その2は、宮崎駿氏の長男、吾朗氏が監督をつとめた『ゲド戦記』。
 しっかしこれもなぁ。つまんなくはなかったけれど、あまり出来がいいとも思えない。どうにも、なにもかもが中途半端な気がしてしまった。
 そもそも、原作を読んでいない僕には、これがなぜ 『ゲド戦記』 というタイトルなのかがわからない。途中でハイタカが「ゲド」と呼ばれるシーンがあるから、ああ、この人がゲドなのかとは思ったけれど、ではなぜ彼の名前がこの物語に冠されているのかは最後まで謎のまま。どう見たってハイタカはこの映画の主役とはいえないし、それほどすごい人という印象さえない。「戦記」というわりには戦争のシーンもまったくない。
 で、調べてみれば、原作の 『ゲド戦記』 は魔法使いのゲドことハイタカを主人公にした全5巻の物語だという。この映画はそのうちの一冊を宮崎吾郎が思いきり脚色したものらしい(おそらく原作とは似ても似つかないほどに)。たぶんアレンというジブリらしい少年を主人公に据えた時点で、原作からは大きく乖離してしまったんだろう。
 でも僕はそれって作り手としてどうなんだと思う。仮にも 『ゲド戦記』 を名乗るからにはゲドを主人公にすべきだろうし、そうでないのならば、たとえ 『ゲド戦記』 に材を得ていようと、タイトルを変えるのがクリエーターとしての誠意ではないのかと。この内容で 『ゲド戦記』 を名乗るのは、『ロード・オブ・ザ・リング』 や 『ナルニア物語』 がヒットしたことを受けての便乗商法としか思えない。ジブリのように世界的にネーム・バリューのあるスタジオがそんなせこいことしなくたってよさそうなものだろうよと思う。
 もうひとつ気に入らないのが、この映画が中途半端に残酷なシーンを描いている点。
 冒頭のドラゴンが殺しあう場面や、アレンが父親を刺してしまうシーン、終盤にクモの腕が切り落とされるシーンなどがそう。最後のやつは 『もののけ姫』 を思い出させる点で二番煎じの感が否めない(宮崎父のような覚悟があって、そういうシーンをあえてアニメで映画化しているならばともかく、とてもそうとは思えない)。
 なかでも、なにより嫌いなのが、父殺しのモチーフ。僕はそれが原作にはないこの映画のオリジナルだと聞いて、あきれてしまった。親殺しという大罪を借りものの物語に軽々しくつけ加える感覚がまったくわからない。
 正直いって、この映画は演出的にも動画としての出来映えとしても、子供向けのレベルを出ていないと思う。それなのに中途半端に残酷なシーンを入れる──しかも親殺しという深刻なエピソードまでつけ加える──ところに、作り手の身の程知らずさを感じてしまう。僕はこの内容だったらば逆に、ディズニー映画のように最初から子供向けと割りきって、残酷シーンはいっさいなしで、明るい作風のファンタジーにしてしまったほうが似合っていると思う。
 さらにいうと、これは近年のジブリ作品のつねだけれど、声優に本職でない人たちを起用している点も気に入らない。テルー役の新人の子なんて素人まる出しだし、『千と千尋の神隠し』 ではハマリ役だった菅原文太も、ここでのハイタカ役には若さが足りない。
 田中裕子は今回も見事だと思ったけれど、あとで彼女の役がじつは男だったと知ってがっくり(女性としか思えない)。主役のアレン役の岡田准一もなかなか悪くなかったけれど、そのウジウジしたキャラがまるで碇シンジのようで、なんだかジブリがエヴァンゲリオンをぱくっているみたいで、居心地が悪かった。
 そういや主人公のアレンが持っている「抜けない剣」もなんだそりゃって感じだった。さんざんじらすから、抜けたらどんなにすごいことが起こるのかと思っていれば、なにひとつ起きやしないし。その一方で、まったくすごいところのなさそうだった女の子には、すごい秘密が隠されていたりするし。この2点に関していえば、伏線の張り方がなってなさすぎる。
 とにかくこの作品、宮崎アニメ風のキャラと演出をまじえつつも、作画の出来は平凡、シナリオには難あり、物語は中途半端なエヴァもどきとくる。やはりこりゃ駄目でしょう。振り返って考えてみるに、よかったのは竜とアレンが向きあっているポスターだけって気がしてくる。これでは宮崎ジュニアは親の七光のそしりを免れまい。
 そうそう、この映画のなによりの問題は、宮崎父の作品にあるような、アニメである必然性がまったく感じられない点。僕は観ていて、これが実写映画ならばよかったのにと何度も思ってしまった。こんなのはアニメでしか見られないというシーンがひとつもなかったからだ。それじゃしょうがないだろう。アニメは実写映画の代用品じゃない。仮にもあの父のあとを継ぐつもりならば、そのことを知らしめるような映画を作ってくれないと。
(Aug 27, 2010)

猫の恩返し

森田宏幸・監督/声優・池脇千鶴、袴田吉彦/2002年/日本/レンタルDVD

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 ジブリ・コンプリート計画、最後の1作は 『猫の恩返し』。これであと 『アリエッティ』 を観れば、ジブリの劇場公開作品で見逃している作品はなくなる(じつは 『海がきこえる』 を観てないのだけれど、あれはテレビ版ということで今回はスキップ)。
 直前に観た2作がどちらも「やっぱどうもなぁ」という出来だったのに比べると、これはなかなかわるくなかった。まあ、最初からまったく期待していなかったから、マイナスになりようがないというのはあったかもしれない。作画の出来は劇場版というにはもの足りない感が否めないけれど──こういうのと比べてしまうと、宮崎駿という人の仕事ぶりがいかにすさまじさがよくわかる──、物語としては笑いが多くてそれなりに楽しめたし、なにより一個のアニメ作品として見た場合、コミカルな猫たちの演出が冴えている分、『ゲド戦記』 なんかより、こちらの方がまだオリジナリティがある。
 声優も最近のジブリ作品のなかではもっともハマっていると思った。少なくても僕は珍しく不満をおぼえなかった。主人公が平凡な女の子って設定のせいか、池脇千鶴という子のアフレコにはまったく違和感がなかったし、脇を固める俳優陣もいい感じ。とくに猫王役の丹波哲郎(なんと!)とその部下の濱田マリがいい味だしていて最高だった。
 というか、僕がこの映画に対して抱いた好感のかなりの部分は、この丹波・濱田コンビによるコメディ色の濃さに負っている気もする。
(Aug 29, 2010)

借りぐらしのアリエッティ

米林宏昌・監督/声優・志田未来、神木隆之介/2010年/日本/ユナイテッドシネマとしまえん

ジス・イズ・アニメーション 借りぐらしのアリエッティ

 ということで観てまいりました、スタジオ・ジブリの劇場最新作 『借りぐらしのアリエッティ』。
 これ、最近のジブリの作品のうちでは、もっとも出来がいいと思う。われながら意外なことに、個人的には 『崖の上のポニョ』 や 『ハウルの動く城』 よりもいいと思った。少なくても宮崎さん以外が監督を務めた作品としては、これまでの最高傑作だと思う(次点は 『耳をすませば』)。
 まあ、とはいっても企画と脚本を手がけているのは、あいかわらず宮崎さんだから、これを持ってして監督の米林宏昌という人をジブリの未来を担う才能と持ちあげていいものかは疑問だけれど、少なくても宮崎さん以外の人が監督を務めても、宮崎アニメのテイストをしっかりと持った作品が生み出せるということを示せたのは大きいと思う。
 とにかくこの映画の魅力は、人間の家の床下に住まう小人たちの世界観を、これぞアニメって手法で表現してみせたこと。序盤で初めて父親に連れられて「借り」に出かけたアリエッティが、食器戸棚の上からキッチンを見渡す場面のスケール感に、この映画の魅力が集約されていると僕は思った。角砂糖一個であれだけドキドキする物語って貴重だ。
 「借りぐらし」というコンセプトもいい。小人は人間の家から必要なものを「借りて」暮らしを営んでいる。つまり僕らの知らないところでひっそりと僕らと共存している。原作を読んだうちの子の話によると、原作では少年がアリエッティに「そういうのは泥棒って言うんだよ」みたいなことを言うらしいんだけれど、この映画にはそういう野暮な発言がないところもいい。世知がらい世の中だからこそ、つまんないこと言わさない姿勢がいい。
 まあ、いささか気になる部分だってなくもない。少年が初登場するときの服装なんかは、いつの時代だって感じで、新世代を担う若手の仕事としてはふさわしくないと思うし、この少年が小人の家のキッチンを差し替えてしまうシーンなんかも、そのあまりに空気を読まない強引な行為が、思慮深そうな彼のキャラクターとアンマッチに思えた。
 そういう若干の欠点もあるにはあるけれど、それでも全体の出来は素晴らしい。世界観はミニマムならがら、きっちりとジブリらしい物語が展開されている。基本はいつもの少年と少女の物語ではあるけれど、お互いのサイズが違いすぎて、一般的な恋愛関係が成り立たないところもいい。おかげでいい年をした僕でも、あまり照れくさい思いをしなくても済む。
 あと、有名俳優を多数起用した声優の人選もこの映画では大成功。ほとんど違和感なく楽しむことができた。まあ、自分が少年時代にあこがれた竹下恵子や大竹しのぶがお婆さんの役ってのは、けっこう複雑な気分だけれど。
 ということで、おそらくこの夏の日本映画界の興行収益ナンバーワンではないかと思われるこの作品、個人的にもジブリひさびさの会心作でした。
(Aug 29, 2010)