2009年7月の映画

Index

  1. ダーウィン・アワード
  2. 崖の上のポニョ
  3. ヱヴァンゲリヲン 新劇場版:序 (TV版)
  4. 未来世紀ブラジル
  5. プロヴァンスの贈りもの
  6. スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい
  7. go
  8. マイ・ブルーベリー・ナイツ
  9. ラスベガスをぶっつぶせ
  10. プルーフ・オブ・マイ・ライフ
  11. エンゼル・ハート
  12. ウィンブルドン

ダーウィン・アワード

フィン・テイラー監督/ジョセフ・ファインズ、ウィノナ・ライダー/2006年/アメリカ/BS録画

ダーウィン・アワード [DVD]

 この映画のタイトルになっているダーウィン・アワードは、思わず笑っちゃうような死に方をした人を表彰するという、インターネットにある人気サイトの名前。なんでダーウィンかというと、「自ら死ぬことで、その愚かな遺伝子を未来に伝えることなく、人類の進化に貢献したから」なのだそうで。ブラック・ユーモアあふれるこのネーミング・センスは抜群だと思う。
 ということでこの映画は、そのサイトで紹介されているいくつかの馬鹿な死に方――たとえば、高層ビルの上のほうのフロアで、窓ガラスの硬さを証明しようとして、体当たりしたらガラスが割れて、転落死しちゃった男とか、ギネス記録を残そうとして(?)、車にロケットエンジンを積んで、そのまま帰らぬ人になってしまった男とか――を映像化して、オリジナル・ストーリーのなかに盛りこんでみせたロマンティック・コメディ。ウィノナ・ライダー主演だというので観たのだけれど、残念ながら、この作品の彼女は役どころ――ドライに仕事をさばくやり手の保険調査員――が、いまひとつしっくりこない気がした。
 さらにこの映画では、奇特な学生がジョセフ・ファインズ―― 『恋するシェイクスピア』 でシェイクスピアを演じていた人でした(気がつかなかった)――演じる主人公のドキュメンタリーを撮っているという設定で、ハンディ・カメラもどきの映像が多用されているのも、観ていてうっとうしかった。演出としてたいして効果的だと思えないし。ただ 『クローバーフィールド』 のように揺れまくりでないのが救いというくらい。
 なもんで、作品の印象としてはいまひとつなのだけれど、それでも差し挟まれるいくつかの実話は、さすがにどれも失笑もの。人が死んだり、不幸になる話で笑っちゃいかんだろうと思いつつも、わざわざ映像化されるほどの馬鹿な死に方には、やはり苦笑を禁じえなかった。
 ちなみにメタリカのコンサートに不正侵入しようとしたファンにまつわるバカ話──―これはさすがにフィクションだと思う――で、メタリカのライヴ・シーンが使用されていて、なおかつバンドのメンバーが自身の役で出演しているので、メタリカ・ファンは必見です――って、僕のまわりにはそういう人、一人もいなさそうだけれど。
(Jul 05, 2009)

崖の上のポニョ

宮崎駿監督/2008年/日本/DVD

崖の上のポニョ [DVD]

 宮崎駿、4年ぶりの大ヒット作なのだけれど……。
 うーん、これは僕としてはかなり微妙。ハリウッドではすっかりCGアニメが主流になってしまった昨今、手描きのセル・アニメのすべきことはなにか――そういう自問自答が宮崎さんのなかにあったんだろう。パステル画タッチの風景描写や、サカナに変身する、きわめてマンガ的でダイナミックな波の描写など、どうせ写実性ではCGにはかなわないのだから、それならば最初からリアルさを追及するのはやめて、セル・アニメらしさを活かした、手描きの絵ならではのおもしろさを見せよう――そういう意欲はとてもよく伝わってくる。サカナといいながら、まったくサカナには見えないポニョのデザインなんかも、そういう開き直りの結果なのだろうと思う。
 ただ、そうした非写実的な作風につられたかのように、ストーリー自体もこれまでになくリアリティを欠いてしまっている。その点が僕にはものたりない。
 物語は要するに人魚姫を宮崎流に料理してみせたもの。でも、主役のカップルを5歳児に設定してしまっているから、最初からマジな恋愛劇にはなり得ない。ふつうの人魚姫ならば、王子さまに対する恋愛感情や人間世界への憧れが人間になりたいと思う原動力になるんだろうけれど、この映画においてはそうした理由づけの部分がはっきりしない。だから、僕にはなぜポニョが人間になりたいと思うのかまったくわからない。
 その点に限らず、この映画は物語の背景となる部分の説明を思いきり省略している。なぜ主人公の男の子が両親を名前で呼んでいるのかとか、ポニョの両親はなぜ人間の姿をしているのかとか、どうして古代魚が平然と泳いでいるのかとか、その他ものもろ。さらにありふれたディテールの部分でも、「そんなのあり得ないだろー」って描写がけっこうある(海水魚のポニョを水道水のバケツに入れたり、海水であふれた水路を車で突っ切ったり)。なんだか、作画でリアリティを度外視することにしたことで、ストーリーの面でも整合性やわかりやすさなんて、どうでもいいやと思ってしまったかのよう。
 それらに加えて、このところのジブリのつねで、脇を固める山口智子や所ジョージのアフレコがいまいちなもので、なかなか気分が盛りあがらない。エンディングでかかる大ヒットの主題歌も、歌が下手すぎて、僕はまったく気持ちよく聴けないし、なんだかんだとトータルで考えると、どうにもマイナスな気分が否めない一作だった。残念。
(Jul 11, 2009)

ヱヴァンゲリヲン 新劇場版:序 (TV版)

庵野秀明監督/2007年/日本/地上波録画

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序

 金曜ロードショーで放送された 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』 を観た。
 ふだんは地上波の映画は観ないのだけれど、これはもともとがテレビ・アニメのリメイクだし、監督の庵野秀明自身が「金曜ロードショーで作品を放送してもらうのが夢だった」みたいな、しおらしいコメントを寄せていたので、つい観てしまうことにした。
 でもやっぱり、地上波は駄目。終わったあとでいきなりCMに突入してしまう点ひとつとっても、やっぱり駄目だと思った。これじゃ余韻もへったくれもあったもんじゃない。僕は映画はエンディングのクレジットまでちゃんと観て初めて、ああ終わったと思う律儀な観客なので、エンディング・テーマがかからない時点でNGだった。ちゃんとDVDを借りて観ればよかった。
 まあ、この第一作目に関しては、ストーリー的にはほとんどテレビ版と同じなので、内容については特筆することもない(……といいつつ、最後にテレビ版を観たのは10年以上前だから、ディテールは忘れまくりだったけれど)。
 それでも、あとでテレビ版の再放送を観てみたら、両者の画質のちがいが一目瞭然でびっくりしてしまった。ヤシマ作戦のように新たに描き下ろした部分はともかく、それ以外の部分──昔の絵をそのまま使っている部分――についても、配色の深みが桁ちがい。同じセルを映画向けに配色して、新たに撮り直したことがわかって、その手間ひまのかけ方には素直に感心した。さすが新劇場版。
 そうそう、観ていて、おっ、これは新しくなっていると、即座にわかったのが、葛城ミサトのとっちらかった部屋にずらりと並んだビール缶が、エビスとクラシック・ラガーになっていたこと(ミサトさん、ビールの趣味が素晴らしい)。エビスはともかく、クラシック・ラガーはテレビ放送当時にはなかったビールなので、おおっ、こんなところにまで手を入れたんだと、これまた妙に感心してしまった。
 なんにしろ、映像のグレードがそうとう高くなっているので、これを観ちゃうとわざわざ劇場に足を運ぶ人の気持ちもわかるようになる。これから先、格段にスケールアップしたこの映像で未知の物語が展開されるとなれば、そりゃ気になろうってもの。僕もちょっと映画館に行ってみたくなった。
(Jul 12, 2009)

未来世紀ブラジル

テリー・ギリアム監督/ジョナサン・プライス、ロバート・デ・ニーロ、キム・グライスト/1985年/イギリス、アメリカ/BS録画

未来世紀ブラジル [DVD]

 テリー・ギリアムがモンティ・パイソンの出身の監督だということは聞き知っていたけれど、これを観て、初めて、ああ、なるほどと思った。人としての尊厳がないがしろにされる近未来の情報処理社会における悲喜劇を描くという、けっこうシビアな内容のくせして、冒頭からすっとぼけたギャグが満載。で、その笑いにも、なんだか、素直に笑っていいのかためらってしまうような感じがあるあたり、いかにもイギリスのコメディで培われたセンスなんだろうという気がした。
 映像はさすがにやや古びている。すでに四半世紀も前の作品だけあって、CGに慣れてしまった目で見ると、描かれる未来の風景は全体的にやたらとチープだ。
 それでも悲壮感漂うラストシーンの壮大さには、かなりのインパクトがあった。その場面へとつながってゆく、カフカ的な不条理感あふれるドタバタ劇もかなりなものだし、なんともいえないあと味の残る作品だった。主演のジョナサン・プライスという人の演技もとてもいい。
 あえていうならば、デ・ニーロの出番が少ないのが、ちょっと残念かなと。おもしろい役どころだけに、もっと活躍するところが見たかった。
(Jul 12, 2009)

プロヴァンスの贈りもの

リドリー・スコット監督/ラッセル・クロウ、マリオン・コティヤール/2006年/アメリカ/BS録画

プロヴァンスの贈りもの [DVD]

 リドリー・スコットの作品にしては珍しく、SFでもサスペンスでもないところに興味をそそられ、なおかつ舞台がフランスのワイナリーだとなれば、酒のみの僕としては観たいと思うのが当然だろうって作品。ただ、いざ観てみると出来映えはそれほどでもなく、けっこう平凡な印象だった。
 物語は、ラッセル・クロウ演じるイギリス人の株式ブローカーが、子供のころ仲良くしていた叔父が遺産として残したぶどう園を相続するためにフランスへと向かい、その土地で自らの人生を見直すことになるというもの。彼が恋に落ちる相手役は その後 『エディット・ピアフ~愛の賛歌~』 でアカデミー賞を受賞することになるマリオン・コティヤール。つまり、この作品はオスカー俳優どうしの豪華共演作ということになる。
 なおかつラッセル・クロウが演じるマックスの子供時代を演じるのは、天才子役として名高いフレディ・ハイモア。また、彼の伯父さん役が名優アルバート・フィニーとくる。老若男女の名優たちがずらりと顔をそろえた、じつに見事なキャスティング。でもそのわりに物語はいたって平均的で盛りあがりはいまひとつという、なんだかちょっともったいない気のする一品だった。
 ちなみにうちの奥さまは「あの男の子が成長してラッセル・クロウになるとは思えない」と言っていました。いや、たしかに。
(Jul 12, 2009)

スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい

ジョー・カーナハン監督/ライアン・レイノルズ、レイ・リオッタ/2007年/アメリカ/BS録画

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 アリシア・キーズとドラマ 『LOST』 のジャック役、マシュー・フォックスが出演しているってんで観てみた群像劇仕立てのアクション映画。
 物語は、FBIと司法取引をしたマフィアの裏切り者の命をねらって、何組もの殺し屋があつまったことから、大変なトラブルがまき起こるというもの。死者続出の殺伐とした展開を、ポスト・タランティーノなユーモアをまじえた演出でスピーディーに見せてゆく(ただし結末はかなり真面目)。
 「暗殺者がいっぱい」というサブタイトルどおり、最初から何組もの殺し屋グループが出てくるのに加え、FBI捜査官たちの友情話が盛り込まれていたり、狙われる側の過去がミステリ仕立てになっていたりと、キャラクターがとても多くて、ディテールを彩るサブエピソードもてんこ盛り。まあ、よくもこれだけの話を2時間足らずで見せるもんだと思った。これくらいボリュームのある作品ならば、もう少し時間をかけてもよかった気がする。でも、なかなかおもしろかった。
 注目のアリシア・キーズが演じるのは同性愛カップルの殺し屋の片方。ブラック・ミュージック界きっての歌姫だけあって、けっこうおいしい役どころをもらっている。一方でマシュー・フォックスはほんのちょい役。口髭つけて眼鏡をかけて髪も長めと、 『LOST』 とはまったくイメージが違うので、出ていると知らなかったらば、おそらく気がつかなかっただろうって役どころだった。
 そのほか、レイ・リオッタが真面目なFBI捜査官の役を演じていたり――なんとなく珍しい気がする――、アンディ・ガルシアがFBI副長官なんていう貫禄のある役を演じていたり――この人もいつの間にかずいぶんと老けている――、キャスティングの面でも豪華で、なかなか見どころの多い作品だった。
(Jul 18, 2009)

go

ダグ・リーマン監督/サラ・ポーリー、ケイティ・ホームズ/1999年/アメリカ/DVD

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 ダグ・リーマン監督作品ということで観た、ドラッグ絡みの90年代版 『アメリカン・グラフィティ』 といった内容の作品。
 これもひとつ前に観た 『スモーキン・エース』 同様、タランティーノの影響があきらかだ。というか、こちらの場合は同時進行する三つの物語を三部構成で見せるシナリオといい、セックスにまつわる露骨な会話や、突発的でオフビートなバイオレンス描写など、ティーンエイジ版の 『パルプ・フィクション』 を狙ったんじゃないかって印象さえある。まあ、さすがに出来映えはあの傑作には遠く及ばないけれど、これはこれでそれなりにおもしろかった。
 キャスティング上、あまり有名どころが出ていないので、目玉はやはりケイティ・ホームズということになるんだろうけれど――当時は二十歳{はたち}そこそこで、まだまだあどけない――、僕としてはどちらかといえば、サラ・ポーリーという女の子の演技のほうが好きだった。けっこう悲惨な役柄をきっちり演じきっているところが好印象。
 この人、子役としてテリー・ギリアムの 『バロン』 に出演して好評を博したりと、女優としてのキャリアは長いらしいのだけれど、そのわりにはあまり名前が売れていないなと思ったら、もともとがカナダ人なところへきて、ハリウッド嫌いで有名で、インディペンデント映画への出演が多いのだとか。政治活動にも熱心だというけれど、この映画の役どころからは、とてもそんな真面目そうな人には思えなかった。でも、そんな若気の至り的なところもまたよし。
(Jul 18, 2009)

マイ・ブルーベリー・ナイツ

ウォン・カーウァイ監督/ノラ・ジョーンズ、ジュード・ロウ/2007年/香港、中国、フランス/BS録画

マイ・ブルーベリー・ナイツ スペシャル・エディション [DVD]

 ウォン・カーウァイ監督、ノラ・ジョーンズ主演のロード・ムービー仕立ての恋愛映画(?)。
 先日のアリシア・キーズにつづいて、またもや歌姫がスクリーンに登場。キャリアにおいても話題性においても伯仲している印象の両者だけれど、群集劇のなかのひとりだったアリシアに比べると、こちらのノラ・ジョーンズは紛うことない主役。しかもジュード・ロウ、デイヴィッド・ストラザーン、レイチェル・ワイズ、ナタリー・ポートマンというそうそうたる顔ぶれを相手に、自然体の演技をみせている。こと映画においては、ノラ・ジョーンズの勝ちといった印象があった。まあ、勝ち負けの問題じゃないんだけれど。
 ウォン・カーウァイの監督作品を観るのはこれが初めてだから、いつもそうなのかはわからないけれど、少なくてもこの映画に関しては映像、とくにその色使いがとてもいい。最初から最後までくすんだ鮮やな色が画面いっぱいにあふれていて、非常に好印象だった。
 この映画、恋愛映画だと思ってみるとあまりぴんとこない気がする。どちらかというとロード・ムービーとして、けっこういい味を出している(クレジットを見ていたら、脚本家として、ウォン・カーウァイと並んでハードボイルド作家、ローレンス・ブロックの名前があったのにはちょっとびっくりした)。全体的な雰囲気がとてもよかったので、ちょっとウォン・カーウァイのほかの作品も観てみたくなった。でも、これが初の英語作品だというし――そのくせ製作が香港、中国、フランスというのがボーダーレスですごい――、香港や中国の映画を見るんだったらば、その前に日本の作品を見ろよって気もする。
 そうそう、あと、ライ・クーダーのセレクションによるスローバラードの数々もいい感じだった。主人公のノラ・ジョーンズ自身の歌が流れるところとか、やっぱりぐっとくるものがある。彼女がヒロインとして特別、魅力的だとは思わないけれど、それでもそんな風に相乗効果があるだけでも、彼女の起用には意味があった気がする。
(Jul 25, 2009)

ラスベガスをぶっつぶせ

ロバート・ルケティック監督/ジム・スタージェス、ケヴィン・スペイシー、ケイト・ボスワース/2008年/アメリカ/BS録画

ラスベガスをぶっつぶせ [DVD]

 この映画、原作がノンフィクションだというので、実際にあった話だと思いこんでいたけれど、いざ観てみたら実話というにはほど遠い印象だった。マサチューセッツ工科大学(MIT)の学生が教授の教えに従い、カジノで大金を稼いだというプロットだけが実話に即しているだけで、メインとなるストーリーは、おそらくほとんどが映画のためのフィクションだと思う。そう考えないと納得がゆかないくらい、上出来のエンターテイメント映画に仕上がっている。これはとてもおもしろかった。
 映画自体としては不満はないものの、ブラックジャックで勝つ方法については、なんだか理屈がよくわからない。出たカードをカウントすることで、どうして勝てるのかわからないし、なぜそれがイカサマになるのかもわからない。だから映画として楽しめないということはないのだけれど、それでもいまひとつ気分がすっきりしない。おかげで原作のノンフィクションが読みたくなってしまった。その点だけがやや困りものかなという作品。
 ヒロインのケイト・ボスワースという女の子、どこかで観ているはずなんだけれど……と思って調べたら、ケヴィン・スペイシーが製作・監督・主演の三役をつとめた 『ビヨンド the シー』 でヒロインに抜擢されていた人だった。この映画もケヴィン・スペイシーがプロデュースに名を連ねているところをみると、どうやら彼のお気に入りらしい。
(Jul 28, 2009)

プルーフ・オブ・マイ・ライフ

ジョン・マッデン監督/グウィネス・パルトロウ、アンソニー・ホプキンス、ジェイク・ギレンホール/2005年/アメリカ/BS録画

プルーフ・オブ・マイ・ライフ [DVD]

 『恋におちたシェイクスピア』 の監督とヒロインがふたたびタッグを組んだヒューマン・ドラマ。原作はピューリッツァー賞を受賞した舞台劇とのこと。
 グウィネス・パルトロウ演じる主人公は、数学界にあまたの貢献を残しながら、精神を病んでしまって不遇の晩年を過ごした天才数学者の娘。父親ゆずりの才能の持ち主でありながら、精神面もまた父親ゆずりで、とても情緒不安定な彼女が、いかにして父親の死を乗り越えて、新たな人生を歩み出してゆくかを、なにかと気のあわない彼女の姉(ホープ・デイヴィス)や彼女に思いを寄せる父の教え子(ジェイク・ギレンホール)との関係を軸に描いてゆく。
 この映画の主人公のキャサリンは精神的に障害を抱えていて、なにかと爆発することが多い。父親の葬儀に集まった多数の参列者に向かって、「貴方たちは父が苦しんでいたこの5年間、いったいなにをしてくれたの。父はさっさと死んでよかったのよ」と演壇の上から罵ってみたり、ジェイク・ギレンホール――この人も最近やたらとよく出てくる――の誠実さを疑って罵声を浴びせたり。でもそんな彼女の怒りの発露が、僕にはとても健全に思えた。病んでいるのは彼女ではなく、彼女をおかしいと思う社会のほうだろうよと――そんな風に思う僕もまた病んでいるのかもしれないけれど――、偽善的な社会のあり方に罵倒の言葉を浴びせる彼女の姿に、僕は憐れみよりもむしろ共感を感じて、少しばかり胸のすくような思いを味わった(なんとなく観点がずれている気もする)。
 それにしても 『ビューティフル・マインド』 にしても、これにしても、数学の天才が精神に異常をきたしてしまうという展開になんとなく納得してしまうのは、微分積分のなんたるかも知らない凡人ゆえの失礼千万な偏見のゆえでしょうか。しばし反省。
(Jul 29, 2009)

エンゼル・ハート

アラン・パーカー監督/ミッキー・ローク、ロバート・デ・ニーロ/1987年/アメリカ/BS録画

エンゼル・ハート [DVD]

 大学時代に観たいと思いつつも貧乏で観られず、代わりに古本屋で手に入れた原作を読んで「ふうん、こんなものか」と思い──つまりそれほど気に入りはしなかった──、それきり忘れたままになってしまった作品。
 『レスラー』 でミッキー・ロークが再評価されるのを見ながら、ミッキー・ロークといえば、 『エンゼル・ハート』 なんて映画があったよなあと思ってときに、ちょうど折りよく放送されたので、この機会に観ておくことにした。ミッキー・ロークが若いころの映画をきちんと観るのって、これが初めてのような気がする。
 この映画、デジタル世代のいまでは珍しいほど、映像が汚かった。フィルムの保存状態が悪かったんだか、なんなんだかわからないけれど、やたらと画像がざらざらしていて、傷も目だった。
 でもそれが決して作品の価値を下げていないところがおもしろい。オカルト・ムードの漂うこの横紙破りのハードボイルド・ドラマには、そのフィルムが傷んだ感じが、ある意味マッチしていた。映像のセンスも魅力的だったし、物語自体はやはりそれほど好きじゃないのだけれど、映画としては、けっこういい作品だと思った。
(Jul 30, 2009)

ウィンブルドン

リチャード・ロンクレイン監督/ポール・ベタニー、キルスティン・ダンスト/2004年/イギリス、フランス/BS録画

ウィンブルドン 【ザ・ベスト・ライブラリー1500円:2009第1弾】 [DVD]

 キルスティン・ダンスト主演だということで観た、ロマンティック・コメディ仕立てのテニス映画。
 前にも一度書いたけれど、『スパイダーマン』 で初めてキルスティン・ダンストを見たときには、なんでこんな特別かわいくもない子がヒロインなんだろうと不思議に思ったものだったけれど、そんな彼女をいつの間にかすっかり気に入ってしまっているんだから、われながらいい加減で惚れっぽい性格だと思う。
 なにはともあれこの映画。キャスティング上、彼女の名前がトップにあるので、セレブなスポーツ界を舞台にした女性目線のおしゃれなロマンティック・コメディかと思いきや、物語は意外とまともなスポ根ものだった。どちらかというと主役はポール・ベタニー――ジェニファー・コネリーの旦那さん。この人は 『ビューティフル・マインド』 での役柄がとても強く印象に残っている――で、彼が演じる三十過ぎのロートル・テニス・プレーヤーが、現役最後の大会として臨んだウィンブルドンで、まわりを驚かすような大健闘を見せるという少年マンガのような話。
 これが意外や、けっこうおもしろい。テニスシーンが思いのほか本格的だし、スポーツ・コメディとして、十分に楽しめる内容だった。まあ、キルスティン・ダンストのテニスシーンだけは一流どころかプロにはとても見えないけれど──ポール・ベタニーもラリーのシーンではバックショットが多かったので、もしかしたらスタントが使われているのかもしれない──、彼女の場合はかわいいから、まあよし。テニスに興味のない僕としては、もとからあまり期待していなかった作品なので、彼女のかわいさと作品自体のおもしろさで、じゅうぶん満足だった。
 そうそう、そういえばポール・ベタニーの弟役で、またもやジェイムズ・マカヴォイが出ていた。この人もこのところ、僕の映画目線にひっかかりまくりだ。
(Jul 31, 2009)