2008年6月の映画

Index

  1. フィラデルフィア
  2. ゴスフォード・パーク
  3. スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師
  4. クイズ・ショウ
  5. ダイ・ハード4.0
  6. ボディガード

フィラデルフィア

ジョナサン・デミ監督/トム・ハンクス、デンゼル・ワシントン/1993年/アメリカ/DVD

フィラデルフィア デラックス・コレクターズ・エディション(2枚組) [DVD]

 僕はこの映画を公開当時に劇場で観ているはずなのだけれど、おぼえていたのは、エイズのせいで職場を追い出された弁護士が、黒人弁護士の助けを借りてもとの職場を訴えて出るという漠然としたプロットだけだった。それだから、主人公はエイズという病気に対する世間一般の無知が原因で職場を追われるものと思いこんでいたら、そうではなく、問題となるのはエイズそのものよりも、主人公にその病気をもたらす原因となった、彼がゲイであるという事実、そのことに対する一般的な差別意識だった。要するに「ホモとなんか、いっしょに働けるかよ。気持ちわるい」と、そういう話ですね。
 なるほど、残念ながらそういう気持ちは、僕にもわからないではない。この映画の仮装パーティーの場面で、トム・ハンクスが恋人役のアントニオ・バンデラスを相手にチークダンスを踊ったりするシーンでは、ちょっと勘弁して欲しいなあと思ってしまったし、普段はあまり意識したことがないけれど、僕自身にもゲイへの苦手意識はそれなりにあるみたいだ(申し訳ない)。
 ゲイの人だって、わざわざ自然の摂理に逆らってまで、好き好んでゲイになるわけじゃないんだろうし、偏見はいけないと思いつつも、やはり正直なところ、ちょっとなあという思いは否めない。親しい人にゲイがいたら、また話は別なのかもしれないけれど、あいにく僕のまわりにはゲイはいないし(いないと思っているだけという可能性もあるけれど)、そうなるとやはりノーマルな性欲を持った人間としては、好んで同性と性的関係を結ぶ人というのは、なかなか理解がたいものがあるのだった。
 ということで、法廷劇としての一面には惹かれつつも、そのメインテーマに対しては、不徳の致すところながら、どうにも若干の距離感をおぼえずにはいられない作品だった。オペラのシーンやラストのホーム・ムービーの場面など、演出的にややウェットでくどいかなあと思わせるところがあるのも、個人的にはいまいち。まあ、その辺は趣味の分かれるところかもしれない。
 それでも、ホーム・ムービーのシーンで流れるニール・ヤングのタイトル・ナンバー自体は非常に感動的だった。 『フィラデルフィア』 といえば、ブルース・スプリングスティーンがオスカーをとった曲が有名なので、こんなところにニール・ヤングのアルバム未収録曲が隠れているとは思わなかった。それも、この人ならではの、いまにも壊れそうな、繊細きわまる極上のスロー・バラード。すでにサントラが廃盤になっているのが残念だ。
 最後に恒例の「この人って見たことあるんだけれど誰だっけ?」シリーズの最新版。トム・ハンクスと対決する女性弁護士役のメアリー・スティーンバージェンという人──「私、この裁判いやだわ」とか言うところがいい──、どこかで絶対に見たことがあるんだけれど、はて誰だっけと思ったらば、『パック・トゥー・ザ・フューチャー』 完結編でドクと恋仲になる人でした。ああ、なるほど。
(Jun 03, 2008)

ゴスフォード・パーク

ロバート・アルトマン監督/マギー・スミス/2001年/イギリス、アメリカ/DVD

ゴスフォード・パーク (ユニバーサル・セレクション2008年第1弾) 【初回生産限定】 [DVD]

 故・ロバート・アルトマンが、アガサ・クリスティ風の本格ミステリに挑戦してみせた意欲作。
 物語自体は、30年代初頭のイギリス貴族屋敷で、多数のゲストがあつまった晩餐会の夜に殺人事件がまき起こるという、まさしくクリスティの十八番{おはこ}というべき展開になっている。ただし監督は 『マッシュ』 でベトナム戦争をおちょくってみせた奇才ロバート・アルトマンだ。正統的なミステリなんて撮るはずがない。
 はたしてこの作品は、本格ミステリの道具仕立てを借りた、一級の群像劇に仕上がっている。
 フーダニット(whodunit)のミステリの場合、「犯人は誰か?」という主題ゆえ、謎解きを複雑にするために登場人物が多くなるものだけれど、それにしてもこの映画の登場人物の多さははんぱじゃない。なんとか卿の屋敷に招かれてくるゲストは五、六組、それぞれに夫婦連れだったり、友人を連れていたりするので、これだけですでに十数人。ゲストは全員セレブな人たちなので、各自に付きびとがついてくる。さらには屋敷には執事のグループや調理人や下働きのメイドなど、使用人がわんさといる。社会階級はピラミッド型となるのがつねなので、当然のことながら人数的には彼ら使用人のほうが多くなる。
 この映画の一番の特色は、そうした使用人たちの行動が主人たちのそれと変わらないくらいの比重で描かれる点にある。いや、ボリューム自体は彼ら使用人を描いたシーンの方が多いかもしれない。少なくても、より人間味のある存在として描かれているのは、貴族たちよりも使用人のほうだという気がした。
 要するにこの映画は、クリスティが得意とした本格ミステリのプロットを借りつつ、その手のミステリでは日の目を浴びることのない、イギリス貴族社会を支える下々{しもじも}の人々にフォーカスして見せるという、異色の群像劇なのだった。貴族が狩猟をしたり、豪華な晩餐会を開いて楽しく過ごしている裏には、こんな風に働いている人たちがいるんだぞと──その人たちにだって、その人たちなりの、つましくも懸命な人生があるんだぞと──、そういうことを知らしめつつ、貴族制という格差社会を風刺してみせたこの映画の着想は秀逸だと僕は思った。
 たとえばハードボイルドは、クリスティやクイーンらの現実味を欠く本格ミステリに対するアンチテーゼとして登場したと言われているけれど、この映画もまったく別のアプローチで同じことをしてみせたものだと思う。それでいてミステリとしての落ちも効いているし(まあ、その点は見方によっては意見が分かれるかもしれないけれど)、とてもいい映画だった。
 いやしかし、そうはいいつつも正直なところ、この映画の登場人物の多さにはちょっとまいった。いつものことで、キャスティングをほとんど知らずに観始めたから、あらかじめ名前がわかっていたのは、マギー・スミスだけ。あとは知らない俳優たちが、総勢何十人という勢いで登場してくるものだから、主要なキャラクターをのぞくと、いったい誰が誰やらという感じだった。
 でも、観ているあいだに、知らないとばかり思っていたキャストのなかに、実は有名人がたくさんいることに気づくことになる。ああ、このクリスティン・スコット=トーマスというのは 『イングリッシュ・ペイシェント』 のあの人かとか、この顔は最近 『クイーン』 でアカデミー賞を受賞したヘレン・ミレンじゃんとか。あ、なんだこの男、クライヴ・オーウェンだ、みたいな。
 あとで調べてみれば、マギー・スミスの付きびとを務めていたケリー・マクドナルドは 『トレインスポッティング』 でユアン・マクレガーのガールフレンドを演じていた女優さんだったし(役柄はあの映画でのはじけた女子高生ぶりとは対照的だ)、映画プロデューサーの付きびと役のライアン・フィリップは 『マイ・ハート、マイ・ラブ』 で髪を青く染めて、アンジェリーナ・ジョリーの恋人役を務めていた青年だった。僕が気がつかなかっただけで、ほかにももっと有名人がたくさんいそうな気もする。
 ちなみにこの映画、イギリスが舞台だからと、キャスティングにもこだわって、イギリス人俳優ばかりを集めたそうだけれど、このライアン・フィリップのみはアメリカ人。なぜ彼だけは例外なのかは、観ればわかる。このあたりの心配りもじつに心憎いし、個人的には 『マッシュ』 よりも、こちらのほうが断然好みだった。
(Jun 20, 2008)

スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師

ティム・バートン監督/ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター/2007年/アメリカ/DVD

スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師 特別版 (2枚組)

 この作品、僕はまったく駄目だった。ティム・バートンは個人的に好きな映画監督だし、世間の評価も高いようだけれども、そういう監督の好き嫌い、作品の出来のよしあし以前に、僕にはその内容をまったく受け入れられない。無差別殺人と食人という禁忌的なテーマをミュージカル・コメディとして描いてみせるというアイディアの時点で、もう楽しめない。了見がせまいといわれようとかまわない。ユーモアを解さないやつと言われても仕方ない。僕はこういう映画を無反省に楽しめるような人間ではありたくない。
 ミステリ・ファンとして普段から殺人をあつかったエンターテイメントにはいくらでも接しているわけだし、いまさら聖人君子を気取るつもりはないけれど、それにしたってやはり限度がある。ギャングや殺し屋といった、殺しをなりわいにしている人たちの話ならばともかく、平凡な一市民があたり前に人を殺すような日常を平然と描き、なおかつそれをミュージカルというアンリアルなエンターテイメントに仕立ててみせたこの作品のアイディアには、僕の許容範囲を超えるものがあった。なんの因果か、この映画のDVDがリリースされたのは、秋葉原で無差別殺人事件があった数日後で、ちょうど無意味に人の命が奪われることに対してナーバスな気分になっていたことも影響したかもしれない。
 いや、映画としての出来はけっこういいと思う。CGを多用して、グレーの色調で統一した映像はとても個性的だし、ミュージカルとしても意外なくらい至極まっとうなつくりになっている。これでもしテーマが違っていたら、かなりのお気に入りになっていたんじゃないかという気がする。だから嫌いというよりは、むちゃくちゃ苦手。そういう作品だった。
(Jun 28, 2008)

クイズ・ショウ

ロバート・レッドフォード監督/ジョン・タトゥーロ、ロブ・モロー、レイフ・ファインズ/1994年/アメリカ/BS録画

クイズ・ショウ [DVD]

 スパイク・リーとコーエン兄弟を偏愛している僕にとって、両者の映画にたびたび出演しては、いつでも素晴らしい演技を見せてくれるジョン・タトゥーロは、なくてはならない名脇役だ。見た目は決してよくないし、いつでもロクでもない役回りばかり演じているけれど、そのろくでなしぶりが見事に板についていて、なんとも憎めない
 この 『クイズ・ショウ』 という映画──ロバート・レッドフォードの監督作品のなかでも、もっとも高い評価を受けている作品のひとつ──では、なんとそのジョン・タトゥーロが、キャスティングの一番最初にクレジットされている。つまり主演?──そりゃ必見だと思って、前から気になっていた。
 でもいざ観てみると、タトゥーロは主役というほどの役回りではない。出番も少ないし、役どころはいつもどおりの嫌われもの。
 ではなぜ、そんな彼がなぜ先頭にクレジットされることになったかというと、それはこの映画が有名俳優をほとんど起用していないからだと思われる。レイフ・ファインズ(『イングリッシュ・ペイシェント』)やミラ・ソルヴィノなど、その後にブレイクする人たちもいくらかいるけれど、この映画の時点では彼らもまだまだ駆け出しの無名俳優だったんだろう。そんな中にあれば、『バートン・フィンク』 でカンヌ映画祭男優賞を受賞しているタトゥーロが一番の売れっ子だというのも納得がゆこうってものだ。
 そもそもこの映画、レッドフォードはわざと見た目がぱっとしない俳優ばかりを集めているように見える。実話を題材にしているので、ハリウッド的な美男美女を集めることで、つくりものっぽくなってしまうことを避けたかったのかもしれない。
 なんにしろ、ここまで垢抜けない俳優ばかりのハリウッド映画も珍しいと思った。主役を演じるロブ・モローとレイフ・ファインズは、ふたりそろってほっぺたが赤くて、まだまだ駆け出しって感じだし、ジョン・タトゥーロは普段より太めで、いつにもまして嫌味な雰囲気だ。唯一の美形、ミラ・ソルヴィノもほとんど出番がない。おかげでラストの聴聞会のシーンで彼女がアップになったときに、いったいこの美女はだれだと思ってしまった。
 それにしてもこの人はきれいですね(少なくても僕はとても好み)。ひさしぶりに彼女が主演しているスパイク・リーの 『サマー・オブ・サム』 が観たくなった。
(Jun 28, 2008)

ダイ・ハード4.0

レン・ワイズマン監督/ブルース・ウィリス、ジャスティン・ロング/2007年/アメリカ/DVD

ダイ・ハード4.0 (特別編/初回生産分限定特典ディスク付き・2枚組) [DVD]

 僕は 『ダイ・ハード』 が大好きであるにもかかわらず、このシリーズ最新作にはあまり興味を持てないでいた。バットマンもエイリアンもシリーズ四作目はかなり問題ありだったので、四作目と聞いただけでどうにも胡散臭い気がしてしまっていたからだ。今度の事件はサイバー・テロだというし、ネタがいま風なだけに、なおさら怪しい気がした。
 ところが、いざ観てみたら、これが意外とおもしろい。ブルース・ウィリス演じる時代遅れのはみだし刑事が、傷だらけになりながらインテリ・テロリストを追いつめてゆき、相手をさんざん怒らせたあげくにやっつけるという、このシリーズの基本的なパターンをきちんと踏襲しているし、なによりもテンポがいい。話はかなりいい加減な気がするのだけれど──テロというテーマが重複するせいか、かなり 『24』 ライクで、マクレーンはいったい一日に何キロ移動しているか、わかったもんじゃない──、それでいて次から次へと大変なことが巻き起こるので、どこがおかしいとちゃちゃを入れている暇がない。これぞまさにローラーコースター・ムービー──いや、これはなかなか素晴らしい出来じゃないでしょうか。とてもおもしろかった。
 ちなみにこの作品でジョン・マクレーンの娘さん役を演じているメアリー・エリザベス・ウィンステッドは、タランティーノの 『デス・プルーフ』 でチアガールの格好をして、おバカな女の子を演じていた女優さん。頑固なマクレーンの娘役の子が、ほかではああいう役を演じていると思うと、けっこう楽しい。頑固おやじ、娘の別の顔に絶句、みたいな。
(Jun 28, 2008)

ボディガード

ミック・ジャクソン監督/ケヴィン・コスナー、ホイットニー・ヒューストン/1992年/アメリカ/BS録画

ボディガード [Blu-ray]

 1億ドル以上の興行成績を残している大ヒット映画なので、一度くらい観ておいてもいいかなと思って観てみたけれど、出来はいまいち。どちらかというと、感動するよりは、苦笑しちゃうようなシーンのほうが多かった。そもそも主人公がレイチェル・マロンなんて名前の時点でちょっぴり笑ってしまう(だって栗ですよ、栗)。これがどうしてそんなにヒットしちゃったのか、よくわからなかった。やはり当時のホイットニー・ヒューストン(とケヴィン・コスナー?)の人気が、それほどすごかったってことなんでしょうかね。
 でもまあ、あらためて聴いてみると、ホイットニー・ヒューストンは文句なしに歌はうまい。彼女のお姉さん役の女性がひとりぽっちでゴスペルを歌っているところへ彼女がやってきて歌に加わるというシーンがあるけれど、このお姉さん意外と歌上手いなあと感心して観ていると、あとから加わる彼女はさらにうまくてびっくり。あきらかに表現のレベルが違う。この歌唱力あってこその人気だったんだなと、その点だけは納得した。
 それにしてもホイットニー・ヒューストンにしろ、ローリン・ヒルにしろ、一度はトップを極めた女性が、その後にプライベートで問題を抱えて失速していってしまうのを見るのは、なんともさびしいものがある。その点、ジャネット・ジャクソンやビヨンセは、同じような成功を収めながらも、健全に業界を渡り歩いているところがすごいよなと、あらぬほうに関心が向いてしまった。
(Jun 28, 2008)