2007年7月の映画

Index

  1. ザ・ソプラノズ<フォース>
  2. ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]
  3. 鉄コン筋クリート
  4. 情婦

ザ・ソプラノズ<フォース>

デビッド・チェース製作総指揮/ジェームズ・ガンドルフィーニ/2002年/アメリカ/DVD

ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア〈フォース・シーズン〉 [DVD]

 ファミリー内部の不協和音がさらに大きくなる第四シーズン。これまでは磐石だったトニーとシルヴィオ(スティーヴ・ヴァン・ザント)の仲までぎすぎすし始め、ファースト・シーズンにトニーが、信用できる部下が欲しいからと、わざわざイタリアから呼びよせたフリオ(フェデリコ・カステルッチオ)さえもが、カメーラに想いを寄せるようになって悩みまくったあげく、トニーに反感を抱くようになってしまう。クリスはすっかりヘロイン中毒だし、その恋人アドリアーナ(ドレア・ド・マッテオ)はFBIの潜入捜査官に弱みを握られて、密告者となる始末。前作に続き、あいかわらずのお騒がせ男ぶりのラルフは、いつ誰に殺されるかが焦点、みたいな状況になっている。
 そんなトラブルメイカーたちの中に加わり、今シーズンから新しく目立つようになったのが、ニューヨーク・マフィアの幹部、ジョニー・サック(ヴィンセント・カラトーラ)。前作でニュージャージーに引っ越してきて以来、なにかと登場回数の多かったこの人が、今回はトニーたちとNYの組織とのあいだでトラブルが続くこともあって、かなり重要な役割を果たしている。
 もうひとり、意外な出世を遂げるのが、ジュニアの付き人だったボビー・バカラ(スティーヴ・シリッパ)。前シーズンまでは、人はいいけれど頭はあまりよくない、典型的な脇役って感じの人だったのだけれど、このシーズンではジュニアの推薦で幹部へと昇進を果たしたり、奥さんを亡くしたりを契機に、ものすごく存在感を強めている。
 おもしろいのは、今回目立っているこの二人が、どちらも極度の愛妻家だということ。ジョニーは奥さんの肥満をジョークにしたラルフを殺すと言い出すほどだし、ボビーは奥さんを失って悲しみに暮れ、立ち直るまでに数エピソードを要するくらいの激しい落ち込みようを見せる。おそらくそんな二人をクローズアップすることで、彼らとは正反対に次々と浮気を重ねるトニーの罪深さを、コントラスト鮮やかに浮かびあげようという演出なのだろう。
 そんなわけで、マフィアとトニーの家庭、両方ともそろって崩壊間近という雰囲気の漂うフォース・シーズンだった。次の第五シーズンはさらに悲惨なことになるという噂。ああ、困ったもんだ。
(Jul 07, 2007)

ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]

ティム・ストーリー監督/ヨアン・グリフィス、ジェシカ・アルパ、クリス・エヴァンス、マイケル・チクリス/2004年/アメリカ/DVD

ファンタスティック・フォー[超能力ユニット] (ベストヒット・セレクション) [DVD]

 『スパイダーマン』 や 『X-MEN』 と同じマーヴェル提供の、アメコミ・オリジナルのSFX映画。岩石男の着ぐるみはもう少しリアルにできなかったものかと思ったりはするものの、それでもいまどきの映画だけあって、全体的にSFXは見事だ。
 ただ、この映画はそれだけで終わってしまう。配役はジェシカ・アルバ以外、あまりぱっとしないし、シナリオもいい加減で、思いがけない超能力を得た男女が、喜んだり、嘆いたりしつつ、結果として社会に害をなしてるだけという感じ。事件のないところに事件を巻き起こしているのは彼らじゃん。あれでは犯人でこそあっても、決してヒーローとは呼べないだろうよと、つっこみたくなってしまう。
 ということでこれは、つべこべうるさいことは言わずに、派手なSFXを楽しむだけの映画と割りきって観るべき作品だと思う。それならば、まあ悪くない。少なくても 『ONE PIECE』 ファンとしては、実写でゴム人間を見られただけでも、それなりに楽しかった。まあ、同じゴムゴムでも、ルフィとは違って、こちらの主役はあまり魅力的とは言えないけれど。
(Jul 07, 2007)

鉄コン筋クリート

マイケル・アリアス監督/声・二宮和也、蒼井優/2006年/日本/DVD

鉄コン筋クリート (通常版) [DVD]

 僕がこの世でもっとも好きなマンガのひとつ、松本大洋の 『鉄コン筋クリート』 を劇場版アニメーション化した意欲作。
 原作は僕にとって、家宝のひとつとして、孫の代までとっておきたいと思うような作品だ。ただこれは、そういう風に好きな人は過剰に好きだし、そうでない人には、なんで僕らがそこまでこの作品に入れ込むのかがわからないといったような{たぐい}の、評価が極端に分かれる作品じゃないかとも思う。
 で、わざわざアニメーション化するくらいだから、監督のマイケル・アリアス── 『アニマトリックス』 の製作に携わった人だそうだ──は、きっと僕と同じように、このマンガを愛している人なんだろう。実際にどうかはわからない。少なくても僕は勝手にそう思い込んで、観る前からこの映画に好意を持っていた。
 そもそも、マンガが原作のアニメというと、オリジナルに対する批評性が皆無で、アニメならではという個性が感じられない作品が多くてがっかりさせられることが多い昨今、この作品は、オリジナルのテイストを残しながらも、それとは違ったスタイルのキャラクター・デザインを採用している点で好感が持てる。なまじ松本大洋の絵がワン・アンド・オンリーだけに、あの絵を無理に動かそうとせず、映画独自のデザインを採用したのは正解だと思う。まあ、松本大洋の絵が動くところを観たかったという思いも当然、あるんだけれども。
 舞台となる架空の町・宝町の描写も、昭和の大阪にアジアの異国情緒が混じりあったような感じで、非常に素晴らしい。ところどころ、風景をキャラクターの視点で描く3Dのショットをセル・アニメで実現した点も特筆もの。セルアニメとしての出来に関しては、宮崎駿の仕事にひけをとらないのではと思う。
 まあ、この頃の日本のアニメの常で、声優の仕事ぶりには納得のいかないところもあるし──特にネズミや木村ら、ヤクザがまるっきりヤクザっぽくない点が不満だった──、クライマックスでクロがイタチと出会う前後の表現には、もっと迫力が欲しかったと思う。その辺のもの足りなさゆえか、おもしろいもので、物語はまったく原作どおりであるにもかかわらず、もたらすカタルシスという点では、この映画は原作に遠くおよばない。少なくても原作には何度も涙した僕が、この映画ではシロとクロの別れのシーンにじわっときたくらいだった。
 そんな風に不満に思うところもないじゃないのだけれど、それでも映画化にあたっての意欲は十分に伝わってくるし、そういう意味では納得のゆく出来映えの秀作アニメーションだと思う。

 ということで、この映画自体はけっこう気にいっているものの、DVDの価格にはおおいに不満がある。
 僕は都内某所でスペシャル・エディションが60%オフで売っているのを見つけて、おおっこれは安いと、思わず衝動買いしてしまったのだけれど、中身を見てみて、これがその価格に見合う内容だとは思えなかった。本編ディスクに加え、1時間半程度のボーナス・ディスクと、スマートではあるけれど、書店で売っていたら千円も出さないぜって感じのブックレット2冊、それに松本大洋書き下ろしの──正直なところ、いまいち出来がいいとも思えない──イラストがフィーチャーされた外箱。中身はそれだけ。まあ、これだけでも豪華っちゃあ、豪華かもしれないけれど、少なくても1万円を超える価格をつけるのは暴利ってものだ。どうして日本のDVDはこうも高いんだろうと、いつもながらに不思議に思う。
 あ、あとこのDVDでは、スタンダード版のジャケットに使われている映画のポスターが、外箱の帯に小さく使われているだけというのも残念。映画版ならではの、にぎやかで素敵なイラストだし、せっかくのスペシャル・エディションなんだから、どうせならば大判のポスターにでもして封入して欲しかった。
(Jul 22, 2007)

情婦

ビリー・ワイルダー監督/タイロン・パワー、マレーネ・ディートリッヒ、チャールズ・ロートン/1957年/アメリカ/BS録画

情婦 [DVD]

 アガサ・クリスティの戯曲 『検察側の証人』 をビリー・ワイルダーが映画化した作品。
 ビリー・ワイルダー監督作品とはいえ、これは原作が法廷シーンばかりのミステリだし、笑える作品ではないのだろうと思っていたら、意外や意外、そんなことはなかった。
 この映画、なかなか笑える。チャールズ・ロートンという、ヒッチコックみたいな雰囲気の俳優さんが演じる弁護士・ウィルフレッド卿が心臓病を患っているという設定、これひとつをふくらませて笑いをとる、とる、とりまくる。さすがコメディの巨匠だと、とても感心した。
 ミステリとしての意外性もかなりなもの──なんだろうけれど、僕は昔この映画を観たことがあるのか、原作を読んだのか、記憶がさだかじゃないけれど、終盤に娼婦が出てきてうんぬんというストーリーに記憶があって、ラストの大どんでん返しに気がついてしまったので、驚きはいまひとつだった。それでも、十分におもしろかったと思えるあたり、やはり非常に優れた映画と思う。
(Jul 22, 2007)