2007年4月の映画

Index

  1. 25時
  2. マッチスティック・メン
  3. ダークマン
  4. ボーン・アイデンティティー
  5. クレージー作戦 くたばれ!無責任

25時

スパイク・リー監督/エドワード・ノートン/2002年/アメリカ/DVD

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 エドワード・ノートンの演じる主人公のモンティは、仲間に裏切られて逮捕され、7年の実刑判決を下されたドラッグ・ディーラー。甘いマスクの優男ゆえ、刑務所なんかに入れられたらば、同性にレイプされて(男としての尊厳を失い?)、生きてゆけなくなる、そう思って刑務所に入るのをひそかに恐れている。この映画は、保釈中の彼がいよいよ明日刑務所に入るという最後の25時間を描いてゆく。
 悪いことして大儲けをしたあげく捕まり、でもって刑務所で野郎にレイプされたら生きていけないとかいって悩んでいるというのは、なかなかふざけた話だ。でもそれがふざけた話であろうとなかろうと、そこにはその人なりの悩みと痛みがあり、それは本人のみならず、まわりのものたち、親友や恋人や親、それぞれの痛みもともなうわけで。不完全な人間たちが陥った救えない状況における痛みを共有すること。スパイク・リーはそのキャリアを通じて、常に一貫してそのような方向性を示してきた気がする。そういう意味では、これもまた実にスパイク・リーらしい映画だなと、観てみてあらためて思った。最初から最後まで、ものの見事に原作そのままという内容なのだけれど──脚本を原作者のデイヴィッド・ベニオフ自身が手がけているので、それも当然かもしれない──、それでいて、僕はこの映画から、原作の倍くらいのインパクトを受けた。やはり映像の力は大きい。好きな監督の作品だけになおさらだ。
 俳優陣では、フィリップ・シーモア・ホフマン、バリー・ペッパーのふたりがモンティの親友役、ロザリオ・ドーソンが恋人役、ブライアン・コックスが父親役で脇をかためている。個人的にはおそらく初めて見る人ばかりだけれど、それぞれにいい演技を見せてくれていると思った。なかでも原作同様に救えないイジイジ高校教師、ジェイコブを演じるホフマンがいい。『カポーティ』でアカデミー賞主演男優賞を受賞するとは思えない情けなさが最高だった。いや、こういう駄目な役をきちんと演じられる演技力ゆえのオスカーかもしれない。
 あと、忘れちゃいけないのが、ホフマンが思いを寄せる教え子役を演じているアンナ・パキン。この時はすでに二十歳{はたち}だったようだけれど、ちょっとサバを読んで、めちゃくちゃパンキッシュな女子高生役を演じている。ホフマンとの居たたまれないキス・シーンのあとに彼女が見せる、戸惑いとも嫌悪ともつかない呆然とした姿がいい。彼女の演技のおかげで、僕にはあのシーンの救われなさが、幾分、やわらいだ気がした。
(Apr 08, 2007)

マッチスティック・メン

リドリー・スコット監督/ニコラス・ケイジ、サム・ロックウェル、アリソン・ローマン/2003年/アメリカ/DVD

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 別れた奥さんとのあいだに子供がいたことを知った神経症の天才詐欺師(ニコラス・ケイジ)が、その14歳の少女(アリソン・ローマン)と心を通わせてゆく姿をおもしろおかしく描いてゆくこの映画。一風{いっぷう}変わったクライム・ムービー仕立てのコメディ・ドラマかと思っていたら、とんでもない。終盤になって、思いもしないような大どんでん返しが待っていて、むちゃくちゃびっくりさせられた。いや、さすがリドリー・スコット。非常にインパクトのある映画だった。
 ストーリーのどんでん返しもかなりなものだけれど、ヒロインのアンジェラを演じるアリソン・ローマンもすごい。14歳の少女役を演じる彼女は、この時、なんと24歳。ひとつ前に観た 『25時』 のアンナ・パキンの比じゃない。じつに10歳もサバを読んでいる。それでいてちゃんと中学生らしく見えちゃうあどけなさがあるんだから、びっくりだ。なんで 『ビッグ・フィッシュ』 でユアン・マクレガーの恋人役を演じていた女性が、同じ年に公開された映画で、中学生に見えちゃうんだろう。不思議で仕方ない。 『ホワイト・オランダー』 で高校生を演じていたのだって、この一年前だというんだからおそれいる。もしかしてこの映画で一番の詐欺師は彼女かもしれない。
(Apr 08, 2007)

ダークマン

サム・ライミ監督/リーアム・ニーソン、フランシス・マクドーマンド/1990年/アメリカ/DVD

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 この映画、All Movie Guide によるとコーエン兄弟が脚本に参加していることになっているのでDVDを買ったのだけれど、実際に観たら、彼らのクレジットなんてどこにもなかった。ほかのサイト( IMDballcinema ONLINE )を調べても、それらしい情報はないし、いったいどうなっているんだか。とりあずコーエン兄弟はサム・ライミとは親交があるらしいし、ジョエル・コーエンの奥さん、フランシス・マクドーマンドも出演しているので、まるで無関係ということはないのだろうけれど。もしかして All Movie Guide 、あまりあてにならないかもしれない。
 でもまあ、この作品は 『スパイダーマン』 のサム・ライミによるダーク・ファンタジーの秀作なので、一見の価値はあると思う。ヘリコプターのシーンなんて、 『スパイダーマン』 のプロトタイプみたいだし、音楽がダニー・エルフマン──この人の音楽はすぐそれとわかる──であるため、ティム・バートンの 『バットマン』 などにも通じる雰囲気がある。あれをもっとチープに、グロテスクにした感じ。
 最大のネックは、悪党に痛めつけられ、全身やけどで顔が焼けただれた主人公が、あまりに痛々しいこと。見ていて気の毒になってしまう。悪人の趣味が、葉巻カッターで切った人の指を集めることってのもなあ。娯楽作として単純に楽しむには、個人的にはちょっとばかり痛ましいシーンが多すぎる嫌いがあった。
(Apr 15, 2007)

ボーン・アイデンティティー

ダグ・リーマン監督/マット・デイモン、フランカ・ポテンテ/2002年/アメリカ/DVD

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 近々第三作目が公開される予定の、マット・デイモン主演のアクション・スリラーの第一弾。
 この映画は『Mr.&Mrs.スミス』が好印象だったダグ・リーマンが監督をつとめている。続編となる『ボーン・スプレマシー』 の監督は『ユナイテッド93』のポール・グリーングラスだというし、もしかしてこのシリーズは注目しなくちゃいけないんじゃないかと思ったので、遅ればせながら観てみることにした。
 翻訳小説好きでありながら不覚にも知らなかったけれど、原作者のロバート・ラドラムという人は、翻訳が二十作近くも出ているほどの人気作家だった。そういえば名前になんとなく聞き覚え(もしくは見覚え)がある気がする。それにしても、これほどの作品を書く人を、僕はなんでこれまで知らなかったんだろう。そう不思議に思ってしまうくらい、この映画のプロットは見事だった。
 物語は銃創を負って気を失ったまま海原を漂っていた主人公が、漁船に助けられるところから始まる。目をさました彼はいっさいの記憶を失っていて、残された手がかりは、お尻に埋め込まれていたハイテクな金属片がしめすスイスの銀行の口座番号のみという状況。
 とりあえずその銀行に向かった彼は、貸金庫のなかから、ジェイソン・ボーン名義のアメリカのパスポートを発見する。よし、おれの名前はジェイソン・ボーンだと、ほっとしたのもつかの間。金庫のなかには、ほかにも高額紙幣や銃とともに、6ヶ国分のパスポートが束になって入っていた。当然のごとく、どれもみな違う名義でありながら、顔写真はすべて彼自身のもの。いったい自分は何者だと、途方に暮れる主人公。
 映画はそこから先、警察やCIAに追われる身となった彼が、ゆきずりで親しくなったアメリカ人女性マリー(フランカ・ポテンテ)とともに逃避行を繰りひろげてゆく模様をスピーディーに描いてゆく。
 CIAでなんらかの重要任務を担っていた特殊工作員が任務に失敗して記憶を失い、自分が誰かもわからないまま、命を狙われて逃げ回るというアイディアが秀逸。彼は自分の正体や記憶を失った原因こそ思い出せないものの、持ち前の特殊技能は健在で、とまどいながらも数ヶ国語をあやつり、無意識的に超絶的な体技を発揮して、敵をあっという間にやっつけてみせる。迫力満点のバトル・シーンあり、おんぼろミニを駆っての派手なカーチェイス・シーンありと、アクション映画としての見どころも満載で飽きさせない。物語と演出ともに優れていて、とてもおもしろい映画だった。
(Apr 15, 2007)

クレージー作戦 くたばれ!無責任

坪島孝監督/植木等、ハナ肇/1963年/日本/BS録画

クレージー作戦 くたばれ ! 無責任 [DVD]

 先月末に亡くなった植木等さんを偲んで、BSで追悼放送された作品。『男はつらいよ』 以外の日本映画を観るのも、やたらとひさしぶりだ。
 物語は、落ち目の老舗製菓会社が、ハッスル・コーラなる興奮剤入りの清涼飲料水を売り出そうと目論んだことから、てんやわんやの騒動が巻き起こるというもの。コーラの効き目を試すための実験台として、社内でもっとも無気力な社員だという理由で白羽の矢がたつのが、植木さん演じる主人公の田中太郎。ハッスル・コーラを飲んだ彼は、当然のごとく、僕らのよく知っている元気者の植木等に変身し、クレージーキャッツの面々とともに、会社の思惑を無視して、大活躍を始めることになる。
 この映画、冒頭からしばらくは青みがかったモノクロ映像が続く。あれ、これって白黒なのかなと一瞬思うけれど、タイトルロールのキャスティングの文字は色つきだったりする。なんでモノクロなんだろうと思って観ていると、それまで、らしからぬ無気力な演技を続けていた植木さんが、ハッスル・コーラを飲んで元気者に変身した途端、映像がカラーになるのだった。わはは、 『オズの魔法使』 じゃあるまいし。この演出は最高だった。笑わせてもらいました。
 まあ、映画の出来としては、そこそこだと思う。それでも 『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』 よりも先に、日本でこういう音楽グループがグループとして主役をつとめるコメディ映画を作っていたというのは、なかなか感心させられるものがあった。
 ちなみに僕はクレージーキャッツについては、ハナ肇、植木等、谷啓の三人以外はまったく知らず、『男はつらいよ』 に何度も出ている犬塚弘さんがメンバーの一人だったことも、今回はじめて知ったくらいでした。おそまつ。
(Apr 15, 2007)