2005年6月の映画

Index

  1. スカイキャプテン ワールド・オブ・トゥモロー
  2. 愚か者の船
  3. パリ、テキサス
  4. 翼よ!あれが巴里の灯だ
  5. オースティン・パワーズ:デラックス
  6. 間諜最後の日
  7. バルカン超特急

スカイキャプテン ワールド・オブ・トゥモロー

ケリー・コンラン監督/ジュード・ロウ、グウィネス・パルトロウ/2004年/アメリカ/DVD

スカイキャプテン ワールド・オブ・トゥモロー [Blu-ray]

 舞台は1939年のニューヨーク。ここに巨大ロボットが来襲する。迎え撃つは特殊仕様のプロペラ戦闘機に乗りこんだスカイキャプテンこと、ジョー・サリバン(ジュード・ロウ)。彼はかつての恋人で敏腕女性記者のポリー・パーキンス(グウィネス・パルトロウ)とともにロボットをあやつる謎の人物トーテンホフの行方を追い始める。
 実写にアニメのキャラクターを登場させるというのは 『ロジャー・ラビット』 や 『スペース・ジャム』 で行われたことだけれど、この映画はその逆。実写のキャラクターたちがCGの背景の中で演技するというアイディアを実現させた点で、やはり画期的な作品だと思う。まあ既に 『スター・ウォーズ エピソード2』 あたりはこれと同じレベルに達しているような気はするけれど、長編映画まるまる一本全部をその手法で貫徹したというのが偉い。なにごとも徹底する人は好きだ。実写とCGの組み合わせをなるべく自然に見せるためだと思われる、全体をセピア色の色調で統一した映像もクラシカルな味わいがあっていい。
 ただそうした映像面での斬新さに反して、物語はまったくB級。なんだかあっちこっちの作品からいろんなものを借りまくって作りましたという感じで、まるでオリジナリティが感じられない。シックな映像に反して、物語的には全編に渡ってドタバタとした落ち着きのない雰囲気になってしまっている点が残念だ。
 あと、見る前から勝手に悪役の親玉だと思いこんでいたアンジェリーナ・ジョリーが、いざ登場してみたら主人公の昔の恋人役だったのには拍子抜けした。強烈な存在感のある悪役を期待して、けっこう楽しみにしていたんだけれど……。
(Jun 11, 2005)

愚か者の船

スタンリー・クレイマー監督/ヴィヴィアン・リー/1965年/アメリカ/BS録画

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 ドイツへ向かう大型客船の上で繰り広げられる様々な人間模様を描く長編映画。これといった主人公のいないこういう作品を総じて「グランド・ホテル形式」と呼ぶのだそうだ。ひとつ勉強になった。
 だいたいのところのメインとなるのは、反逆罪に問われている公爵夫人(シモーヌ・シニョレ)と心臓病を患う船医(オスカー・ウェルナー)の恋。あとは貧乏画家(ジョージ・シーガル)とその恋人(エリザベス・アシュレイ)の痴話喧嘩。そのほかはユダヤ人が差別を受けていたり、ジプシーのフラメンコ舞踏団が春をひさいでいたり、難民がどかっと乗り合わせたりと、いろいろだ。DVDのパッケージを飾っているリー・マーヴィンとヴィヴィアン・リーの二人は、ともに連れのいない孤独な中年旅行者といった役どころで、特に恋に落ちるでもない、意外と地味な役回りだった。
 オープニングとエンディングでカメラに向かって語りかけるグロッケン役の小人{こびと}の俳優さん(マイケル・ダン)が、自分のことを dwarf と言っていたのを聞いて、この単語が別に 『指輪物語』 の世界だけの単語じゃないことを知った。なにを見ても勉強になると思う今日この頃。
 まあ、悪い映画じゃないとは思うけれど、個人的な意見としては、2時間半はやや長過ぎるかなと。
(Jun 11, 2005)

パリ、テキサス

ヴィム・ヴェンダース監督/ハリー・ディーン・スタントン、ナスターシャ・キンスキー/1984年/アメリカ・西ドイツ・フランス合作/BS録画

パリ,テキサス コレクターズ・エディション(初回生産限定) [Blu-ray]

 『ベルリン・天使の詩』(個人的には未見)と並んでヴィム・ヴェンダースの代表作といわれるこの作品。さすがに高い評価にまちがいはなくて、一本の作品のなかに連作短編三部作と呼べるような内部構造を持った傑作だった。
 最初の部分は4年間行方不明だったという主人公のトラヴィス(ハリー・ディーン・スタントン)がテキサスの片田舎で行き倒れになり、迎えにきた弟ウォルト(ディーン・ストックウェル)の家に身を寄せるまでの顛末を描くというもの。その間のトラヴィスはほとんど口を聞かないので、彼が失踪していた理由や彼の数々の奇行のわけなどがわからず、これはもしかしてミステリ映画かと思わせる (でもそんなことはない)。
 ウォルト夫婦は8歳になるトラヴィスの息子、ハンター(ハンター・カーソン)を養っていた。つなぎとなる真ん中の部分では、ウォルト家の居候となったトラヴィスが、わが子ハンター──幼い頃、離ればなれになったままだったので、実の父親のことはほとんど覚えていない──との交流を通じて、徐々に自分を取り戻してゆく姿が描かれる。その一方で子供のないウォルト夫婦は、実の子のように育ててきたハンターをトラヴィスに奪われるかもしれないという悩みを抱き始める。
 作品のメインとなる最後の部分では、トラヴィスはそんな弟夫婦の悲しみにも気づかないまま、ハンターを勝手に連れ出して、二人で別れた妻ジェーン(ナスターシャ・キンスキー)を探しにゆくことになる。トラヴィスとジェーンはかなり変わった状況のもとで再会を果たすことになるのだけれど、そのシーンが素晴らしいこと……。これは映画史上に残る名シーンのひとつだろう。この脚本にはやられた。最高だと思う。
 正直いって、トラヴィスは人生の敗残者だ。この映画の中での彼の行動にも誉められたところはほとんどない。身の回りにいたら、気恥ずかしくてたまらないタイプの人だと思う。状況を考えてみれば、この映画が終わったあとのそれぞれの人生も、あまりいい方へ向かいはしないのだろう。一時的な{いや}しはあるかもしれないけれど、一緒に別の悲しみも生まれているし、概してあとに待っている人生は厳しいだろうと思わせるものがある。
 それでも描き方次第では、そんな人々の人生の一部を、まるでおとぎ話のように美しい物語として描き出し、こんな風に人々を感動させることができる。ここにはフィクションのもつマジックがある。とても感心した。
(Jun 12, 2005)

翼よ!あれが巴里の灯だ

ビリー・ワイルダー監督/ジェームズ・スチュワート/1957年/アメリカ/BS録画

The Spirit of St. Louis (1957) /翼よ!あれが巴里の灯だ  [Import] [DVD]

 チャールズ・A・リンドバーグによる大西洋横断単独飛行を、巨匠ビリー・ワイルダーがその手腕を存分に発揮して描いてみせたワイドスクリーンの大作。
 ワイルダーの作品にしては珍しくいまだDVDになっていないし、そもそも一人の男が何十時間もかけて大西洋を横断する話を映画で見て本当におもしろいのかと疑問だったので、まったく期待していなかった。とりあえずワイルダーの作品だから見ておこうと、あまり乗り気もせずに録画しておいた作品だったのだけれど、そこはさすがワイルダー。大変おもしろい映画に仕上がっていてびっくりした。考えてみればあれだけの才能を持った人が、これだけの映画を撮る費用をあたえられて、つまらない作品を残すはずがない。そんなことに気づかなかった自分はなんて馬鹿なんだろうと思ってしまった。
 この映画で一番おもしろかったのは、飛行中に睡魔に襲われるリンドバーグの描写。なんたって横断には40時間近くかかる。加えて彼は緊張のあまり出発の前夜、一睡もできていない。おかげで出発してわずか数時間で既に眠気に襲われる始末。後半はいかにその眠気に負けないかが勝負と言う様相を呈してくる。この点、普段からとろんとした目をしたジェームズ・スチュワートの起用は大正解。見てみるこちらまで眠くなってきて、あまり経験のない、変な臨場感を味わえる。
 それと単独飛行だから、飛んでいるあいだは、そうそう特別な出来事は起こらない。その間をつなぐエピソードを、睡魔と戦うリンドバーグの夢うつつの回想シーンといった感じで挿入してみせたシナリオがなかなか見事だと思った。
(Jun 12, 2005)

オースティン・パワーズ:デラックス

ジェイ・ローチ監督/マイク・マイヤーズ、ヘザー・グレアム/1999年/アメリカ/BS録画

オースティン・パワーズ:デラックス<DTS EDITION> [DVD]

 007・ミーツ・フラワー・ムーブメントというコンセプトによるエロネタ満載お馬鹿コメディのシリーズ第二弾。
 マイク・マイヤーズは前作の一人二役からさらにパワーアップ、超肥満漢のファット・バスタード役も加えて一人三役の大活躍だ。いやいや、言われないと気がつかない見事な化けっぷり(そもそもドクター・イーヴルだって、言われるまで気がつかなかったような気がする)。おみそれしました。
 それはそうとこの映画、驚いたことにコステロ&バカラックが登場して、挿入歌を自ら披露してくれていたりする。曲を提供しているのは知っていたけれど、まさか出演までしていたとは……。ファンとしては、ちょっとまいってしまう。
(Jun 12, 2005)

間諜最後の日

アルフレッド・ヒッチコック監督/ジョン・ギールグッド、マデリーン・キャロル、ピーター・ローレ/1936年/イギリス/BS録画

間諜最後の日 [DVD]

 敵国のスパイを始末する使命を受けてスイスへやってきたリチャード・アシェンデン(ジョン・ギールグッド)は、そこで彼の妻の役を命じられたエリサ(マデリーン・キャロル)と出会って恋に落ちる。仲間の“将軍”(ピーター・ローレ)とともに敵を探すうちに、間違って無関係の男性の命を奪っってしまった彼らは、自分たちの任務に懐疑的になり、職を辞して国へ帰ろうとする。ところがその直後に敵のスパイの情報が入ったため、リチャードはエリサを置いて任務へ。そんな彼の姿勢に失望したエリサは一人でスイスを発つことに。
 スパイの任務に冒険気分で浮かれていたエリサが、自分たちの任務の非情さに気づいた途端、人道主義的になって、ついには暴走のあまりリチャードたちにピストルを突きつけたりする支離滅裂なふるまいぶりがすごい。悪人だろうと殺しちゃ駄目っていいながら、ピストル突きつけちゃいかんだろう。彼女のそんなこまったちゃん具合が物語を転がしてゆくという展開はあまり気持ちよくない。しかも悲劇的な結末のあとのエンディングは妙にあっけらかんとしているし、いまひとつ作品としてうまくまとまっていない印象を受けた。
 とりあえずピーター・トーレの演じるベルギー人だかフランス人だかの殺し屋“将軍”のキャラクター作りはとてもいい。
(Jun 12, 2005)

バルカン超特急

アルフレッド・ヒッチコック監督/マーガレット・ロックウッド、マイケル・レッドグレーヴ/1938年/イギリス/BS録画

バルカン超特急 【淀川長治解説映像付き】 [DVD]

 物語の中心となるのはイギリスへと向かう特急列車の車内。主人公のアイリス(マーガレット・ロックウッド)は、意に染まぬ結婚のために帰国の途にあるアメリカ人美女。彼女が知り合いとなったイギリス人の老女性教師フロイ(デイム・メイ・ウィッティー)が車内から突然姿を消してしまう。そのことで騒ぎ出した彼女に対し、乗り合わせた乗客や乗務員らは、そんな女性は知らない、アイリスはずっと一人だったの一点張りで、彼女の正気を疑う始末。彼女は自らが正しいことを証明すべく、売れない音楽ライターのギルバート(マイケル・レッドグレーヴ)の協力を得て、フロイ女史の行方を探し始める。
 密室から老女が姿を消したというのに、主人公以外の誰もがそんな女性は見たことがないと言う不可解さ。謎自体はそれほど難解ではないのだけれど、その展開自体にはなかなか刺激を受けた。乗り合わせた乗客たちのそれぞれの事情──クリケットの試合観たさに帰国をあせる中年イギリス人の二人組とか、不倫旅行中で人の目を引きたくないカップルとか──を上手に組み合わせたシナリオも見事だ。とてもおもしろかった。
 本格ミステリの味わいがある上に、フロイ女史がミス・マープルを思い出させたこともあり、続けてアガサ・クリスティの映画が観たくなった。
(Jun 12, 2005)