2004年12月の映画

Index

  1. プレイス・イン・ザ・ハート
  2. ロジャー&ミー
  3. デイズ・オブ・サンダー
  4. ボウリング・フォー・コロンバイン
  5. 華氏911
  6. 地下鉄のザジ
  7. スパイダーマン
  8. スパイダーマン2
  9. レイダース 失われたアーク<聖櫃>
  10. 刑事ジョン・ブック 目撃者
  11. アウトロー
  12. 永遠のモータウン

プレイス・イン・ザ・ハート

ロバート・ベントン監督/サリー・フィールド/1984年/BS録画

Places in the Heart (1984) / プレイス・イン・ザ・ハート 北米版DVD [Import] [DVD]

 舞台は1935年のテキサスの田舎町。サリー・フィールド演じる保安官の妻エドナは、物語が始まるや否や愛する夫を失い、二人の子供を抱えて、残った住宅ローンの支払いに頭を痛めることになる。そして溺れるものは藁をもつかむの{たと}えで、家の銀食器を盗もうとした黒人農夫モーゼズ(ダニー・グローバー)の提案を受け入れ、綿の栽培で生計を立てようと決意するのだった。
 主人公の一家には社会的弱者ばかりが寄り集まっている。若くして夫に先立たれた主婦、幼い子供二人、黒人労働者、ジョン・マルコヴィッチ演じる盲目の椅子職人(エドナが家賃の足しと銀行家に押し付けられた)。そんな彼らが力をあわせて、終始タイフーンが襲来する厳しいアメリカ南部の片田舎で、なんとか生きていく姿を描いたこの映画はなかなか感動的だ。ただし残念なことに、話の終わらせ方はあまり好きになれない。
(Dec 04, 2004)

ロジャー&ミー

マイケル・ムーア監督/1989年/DVD

ロジャー&ミー [DVD]

 最新作 『華氏911』 でカンヌ映画祭のグランプリを獲得した時代{とき}の人、マイケル・ムーアのデビュー作。
 彼の生まれ故郷の町ミシガン州フリントが、ゼネラル・モーターズのリストラによって3万人もの失業者を出した。これにより始まった人口の流出や犯罪の増加で荒廃してゆく故郷の姿に心を痛めたムーアは、事態を起こした当事者であるGM会長のロジャー・スミスに現状をその目で見てもらおうと執拗に面会を求め始める。けれど胡散臭い彼からの怪しげなアプローチは当然のごとく相手から無視され続けるのだった。果たしてマイケル・ムーアはロジャー・スミスと会えるのか。そしてフリントの運命は……。
 最近なぜか気になって仕方なかったマイケル・ムーアの作品をようやく見た。当然なのかもしれないけれど映像美や音響の素晴らしさといった要素は皆無だ。思っていたよりも笑いを狙った演出も少ない。ただ淡々とした語り口で自らの故郷が荒廃してゆく過程を追いながら、その事態を巻き起こした当事者であるGM会長を追いかけている自分の姿をレポートしてゆく。普段あまり目にすることのないアメリカ社会のあり方が鮮明に刻み込まれている点では興味深い映画だった。
 ムーアの同級生が失業して家に帰ってきた時にラジオでかかっていた曲として紹介され、エンディング・クレジットでもかかるビーチ・ボーイズの 『Wouldn't It Be Nice』 の使い方は抜群だと思う。
(Dec 04, 2004)

デイズ・オブ・サンダー

トニー・スコット監督/トム・クルーズ、ロバート・デュバル/1990年/BS録画

デイズ・オブ・サンダー [Blu-ray]

 若い天才レーサー(トム・クルーズ)と老整備士(ロバート・デュバル)が障害を乗り越えて、デイトナ500で優勝するまでを描く熱血レース映画。
  『トップガン』 のスタッフが再集結して作ったスピードレースがテーマの映画ということで、どこからどこまで二番煎じな印象の否めない一作。ヒロインがニコール・キッドマンじゃなかったら見ようとは思わなかっただろう。
 とはいっても娯楽映画としては普通によく出来ている。レースシーンにはF1のテレビ放送を見るよりも余程迫力があるし、キッドマンも綺麗だ。個人的にはトム・クルーズの演技がいまひとつ好きになれないのが難点。
(Dec 04, 2004)

ボウリング・フォー・コロンバイン

マイケル・ムーア監督/2002年/DVD

ボウリング・フォー・コロンバイン [Blu-ray]

 アメリカでは一年のあいだに1万人を超える人が銃のせいで命を落としているという。その数字は他の国と比べて突出している。なぜこんなことになるのか。この国はどこが間違っているのだろう。マイケル・ムーアはその原因を、政府とメディアが国民の恐怖心を煽りたてていることにあると見てとり、そのことを映像の積み重ねによって印象づけようとしている。なんともいいようのない気分になる映画だ。
 この作品を見て一番意外に思うのは、アメリカ社会における銃犯罪の多さは、決して銃の所持が許可されているからではないということだ。僕は誰でも銃が持てるから、結果として銃による殺人事件が多発するのだろうと短絡的に思っていた。ところがムーアが提示するデータによると決してそんなことはない。カナダでも銃の所持は認められているけれど、銃による死者は年間わずか167人。人口が違う? そりゃそうだ。カナダの人口はアメリカの10分の1程度に過ぎない。
 しかしながら、アメリカでの銃による死者数が1万人というのは、カナダのおよそ100倍だ。それは裏を返せば、単純な比率として、アメリカではカナダの10倍、多くの人が命を落としているということになる。これはあきらかに銃の所持がアメリカにおける殺人の多さの原因ではないということの証拠だろうとムーアは説く。
 それではなぜそんなことになるのか? その答えをムーアは、誰もが他人を信じられなくなるような雰囲気を煽り立てるマスコミの報道姿勢や──特に黒人を悪役に仕立て上げる姿勢をムーアは強く糾弾する──、貧困者の救済よりも軍事産業の利益を優先する政府のあり方に求める。
 そうした意見を受け入れるか否かは人それぞれだろう。ただ彼がここでとりあげているように、実際に高校生や幼児による殺人事件が起こってしまっているという事実に変わりはない。その現実を踏まえず、原因を究明して事態を改善すべきだと思わないで平気な人は、この映画にケチをつける資格はないと僕は思う。この映画の中のチャールトン・ヘストンのように黙って立ち去るべきだ。それがいいことだと僕は思わないけれども。
(Dec 05, 2004)

華氏911

マイケル・ムーア/ジョージ・ブッシュ/2004年/DVD

華氏 911 コレクターズ・エディション [DVD]

 「この戦争をやめさせろ」
 ひとことで言ってしまえば、ソウル・フラワー・ユニオンの中川敬が 『極東戦線異状なし!?』 で歌ったこのフレーズ、そのまんまを映像でアピールしようとしたのがこの映画だろう。ブッシュがなぜこんな理不尽な戦争を巻き起こし、継続しようとしているのか。それがどんな不幸を巻き起こしているか。ムーアはテレビ映像や様々な人々のインタビューを積み重ねてゆき、現状の間違いを明確に示そうとしている。
 結果としてこの映画は同じ意見を強く持つ人にだけ受け入れられ、ブッシュや戦争を肯定する人だけではなく、それらのことをどうでもいいと思っている人にとっても見る価値のない映画になってしまっている気がする。本来ならばそういう人にこそ見て欲しい映画であるはずなのに。そう思うと、なかなかやりきれない気分にさせられる。
 この映画にあきらかな欠点があるとすれば、それはリッキー・リー・ジョーンズに「醜い男」とまで歌われたジョージ・ブッシュの顔を2時間のあいだ、ずっと見せられ続けることだ。この映画の主人公は悪役としてさえ、あまりにも魅力に乏しい。
(Dec 05, 2004)

地下鉄のザジ

ルイ・マル監督/カトリーヌ・ドモンジョ、フィリップ・ノワレ/1960年/BS録画

地下鉄のザジ [DVD]

 ザジ(カトリーヌ・ドモンジョ)は母親に連れられてパリへ出てきた十歳の女の子。母親は男と週末を過ごすため、彼女を妹夫婦に預けて姿を消してしまう。ザジの一番の楽しみは地下鉄に乗ることだった。ところがあいにく地下鉄はストのため運行停止中。彼女はそれに代わる楽しみを求めてパリの街を歩き回る。怪しげな露天商と追いかけっこをし、義叔父のガブリエル(フィリップ・ノワレ)とエッフェル塔に上り、欲求不満の未亡人の車で観光バスに連れ去られたガブリエルを追いかけて。
 この作品はタイトルに惹かれて若い頃に原作を読んだことがあるのだけれど、正直なところ、まったくおもしろくなかった記憶がある。今回、映画ならばどうだろうとテレビで放送されたのを機に見てみたけれど、やはりあまりぴんとこなかった。
 ただ、基本的に僕はこういう映画自体は嫌いじゃないし、映画の出来自体が悪いとは思わないので、これは単にいまの僕の気分の問題もあるだろう。タイミングさえあえば、それなりに楽しめそうな気もするので、いずれ心に余裕がある時に、ワインでも飲みながら観直したい。
(Dec 11, 2004)

スパイダーマン

サム・ライミ監督/トビー・マグワイア、キルスティン・ダンスト/2002年/DVD

スパイダーマンTM デラックス・コレクターズ・エディション [DVD]

 幼馴染みの女の子に声さえかけられない内気な青年ピーター・パーカー(トビー・マグワイア)が、遺伝子操作で作り出された特殊な蜘蛛にかまれたことにより、超人的な身体能力と蜘蛛の糸を自在に操る特殊能力を身につけたスパイダーマンとなって活躍する大ヒット・ムービー。
 評判がいいので観てみようという気になったのだけれど、いやこれはおもしろかった。痛快なアクションといい、超人であるための苦悩といい、まさにヒーローものの王道。スパイダーマンの見た目に惹かれないのと、CMで見たCGの作りものっぽさが気に入らなくて無視していたのは大きな間違いだった。
 欠点があるとすればMJ(キルスティン・ダンスト)がまったく高校生に見えないことだよなと思っていたら、撮影当時、彼女はなんとまだ二十歳だったとか。それならばそれなりに年相応な役じゃないか。なんだかなあ。十歳はサバを読んでいるトビー・マグワイアの方がよほど高校生らしいというのはどういうもんだろうか。
(Dec 11, 2004)

スパイダーマン2

サム・ライミ監督/トビー・マグワイア、キルスティン・ダンスト/2004年/DVD

スパイダーマンTM2 デラックス・コレクターズ・エディション [DVD]

 親友からは親の{かたき}として憎まれ、危険な目にあわせたくないからと愛する女性を諦める。苦悩の数々に負けてスパイダーマンをやめる決心を固めたピーターだったけれど、そんな彼のまえに新たなる敵──実験ミスから怪人と化した天才科学者ドクター・オクトパス( 『ショコラ』 で村長さんを演じていたアルフレッド・モリナ)──が襲いかかる。
 この続編も十分におもしろい。おもしろいと思うのだけれど、それでも個人的には、スパイダーマン誕生の過程を丁寧に描いていた前作の方が、物語が起伏に富んでいて好きだった。
(Dec 19, 2004)

レイダース 失われたアーク<聖櫃>

スティーヴン・スピルバーグ監督/ハリソン・フォード/1981年/DVD

アドベンチャーズ・オブ・インディ・ジョーンズ コンプリートDVD

 ジョージ・ルーカスとスティーヴン・スピルバーグの二大巨匠がタッグを組んだ冒険活劇の傑作。今回ようやくDVDを入手したので2年ぶりに観た。さすがに最新の修復技術は優れているらしく、LDで見た時には随分と映像の粗が目立っていたのに、すっかりぴかぴかになっていて嬉しかった。
 といいつつ、以下はこの映画に対する非難になってしまうのだけれど。
 以前、宮崎駿氏がインタビューでこの映画をけなしているのを読んだことがある。宮崎さんは確か、主人公が潜水艦に乗り込むシーンを例にあげて、そのいい加減な御都合主義を非難していた。
 僕はそれを読んで不思議に思った。自身の作品だって御都合主義からは逃れられないでいるのだろうに、なぜこの映画のそうした部分が、わざわざけなすほど気に入らないのか、わからなかった。基本的には徹底した娯楽映画なんだし、その中での適度の御都合主義は仕方なくはないかと。
 ところが今回観直してみたところ、残念ながら僕にもこの映画があまり上等な作品には思えなくなってしまった。その一番の理由は、娯楽を提供するために人をいとも容易く殺して見せてしまっていることにある。
 もっとも典型的なのが、インディが蛮刀を振るって襲ってくる敵をピストルで撃って殺してしまうシーン。あのシーンの痛みのないユーモアは、ある意味すごく残酷だと思う。成長しつつある子供の親として、また死につつある親をもつ身として、生と死を真面目に考えることの多い今の僕にとって、ああした無邪気な殺人の描き方には、違和感を覚えないではいられないものがあった。いかに娯楽だとはいえ、あんなにお気軽に人を殺すシーンを描いていいのかと。
 もちろん世の中にはエンターテイメントとしての殺人があふれかえっている。僕らは罪深くもそれらを楽しんでいる。けれど、基本的に死を描くのならば、それが娯楽のためであろうとかなろうと、そこには死というものがもつ尊厳や、死にゆくものへの敬意や、それを相対化するシニシズムがなくてはならないと僕は思う。最低でもなんらかの罪の意識を持たないといけないと思う。死というものの重さを知った上で、あえてそれを扱うのが大人としての表現者の責任ではないかと。
 この映画にはそういう自覚がまったくないように見える。いまの僕はそれを罪深いことだと思ってしまう。宮崎駿という人は作品全体に対して同じような無責任さを感じたんじゃないだろうか。表現者が自分の都合がいいように、人の生死をまでも安易に娯楽化して平然としている無神経さに反応して、拒絶反応を示していたんじゃないかと思ったりした。
 なにはともあれ、かつてもっとも好きな映画のうちのひとつだったこの作品が、そんな風に素直に楽しめなくなっている自分を寂しく思いつつ、それが成長するってことなのかなと思う今日この頃だった。
(Dec 19, 2004)

刑事ジョン・ブック 目撃者

ピーター・ウィアー監督/ハリソン・フォード、ケリー・マクギリス/1985年/BS録画

刑事ジョン・ブック 目撃者 [Blu-ray]

 戒律を重んじ、現代文明と暴力を否定して質素に生きるキリスト教の一派アーミッシュ。ペンシルベニアを中心に広がるこの集団の一員であるレイチェル・ラップ(ケリー・マクギリス)は夫を失ったばかりの美しい未亡人。幼い息子のサミュエル(ルーカス・ハース)とともに姉のもとを頼ってゆく途中の駅で、偶然そのサミュエルが殺人を目撃してしまう。事件の担当刑事ジョン・ブック(ハリソン・フォード)は彼らを足止めするも、その事件に自らの上司が関係していることを知って、命を狙われる羽目に。親子とともに逃亡して、アーミッシュの中に身を隠すことになる。
 なかなかいい映画だった。ラストが安直なハッピーエンドになっていないのがいい。ハリソン・フォードのスーツ姿は見事に垢抜けないけれど。
(Dec 19, 2004)

アウトロー

クリント・イーストウッド監督/クリント・イーストウッド/1976年/BS録画

アウトロー [Blu-ray]

 時は南北戦争末期。早撃ちで名を馳せたジョージー・ウェールズ(クリント・イーストウッド)は妻子を殺した憎き仇が北軍に加わったと知って、自らは南軍の一員となる。ところが戦争は北軍の勝利に終わり、最後まで抵抗を見せた仲間たちもついに降伏を余儀なくされることに。ひとりで時代の流れに逆らって抵抗を試みたジョージーは、高額の懸賞金をかけられ、お尋ね者に……。復讐を誓いつつ、逃亡を続けるジョージーだったけれど、旅を続ける間にそんな彼を中心として、インディアンや老寡婦や精神薄弱気味の美女といった、社会的弱者ばかりの奇妙な集団が形作られてゆく。
 風変わりな時代設定の西部劇かと思ったら、そうとも言い切れない、なんだか不思議な映画だった。あえて言うならば、南北戦争末期を舞台にした、ガンマンが主人公のロード・ムービーとでも言ったところだろうか。思いのほか個性的な映画でおもしろかった。やっぱりイーストウッドはあなどれない。
(Dec 29, 2004)

永遠のモータウン

ポール・ジャストマン監督/ファンク・ブラザーズ/2002年/DVD

永遠のモータウン [DVD]

 数々のヒットを生み出したモータウンにあって、そのほとんどすべてのレコーディングを担当していたにもかかわらず、ほとんど無名のままに終わったスタジオ・ミュージシャンたちに焦点をあてたドキュメンタリー・フィルム。
 ひさしぶりに顔をあわせた年寄りミュージシャンたちが、思い出話に花を咲かせて馬鹿笑いをしているシーンがなんだかやたらと印象に残る映画だった。それを微笑ましいと見るか、鬱陶しいと見るかは人それぞれだろう。僕は、年をとってからあんな風に談笑のできる仲間がいることがなんとも羨ましかった。
 なんにしろ派手さはないものの、バンド経験のある人間にとっては興味深い映画だ。「じゃあちょっとモータウンのサウンドを鳴らしてみようか」みたいな感じで、ドラムから順番に音を重ねてゆくシーンがあるのだけれど、その最初のドラムが鳴り出しただけで、これぞモータウンだというイメージを受ける。モータウンというと 『恋はあせらず』 のベースラインという印象があったのだけれど、ドラムだけでもモータウン・サウンドを感じさせられるという事実がちょっとした驚きだった。
(Dec 31, 2004)