毎年恒例、Jリーグ開幕を一週間後にひかえて行われるゼロックス杯。例年は昨年度Jリーグ王者と天皇杯優勝チームの対戦だけれど、今年は両方ともレッズが勝ってしまったため、天皇杯準優勝のガンバ大阪が対戦相手に選ばれた。つまり元日の天皇杯決勝戦とおなじ顔合わせなわけだ(ということは、両チームが天皇杯決勝への進出を決めた時点で、この日の対戦カードが決まっていたことになる)。
 その試合では、負けたガンバのほうが内容的には上回っていた印象だった。この日もやはり構図はおなじ。ただし結果はまるで正反対になった。ガンバ大阪がマグノ・アウベスのハットトリックなどで、4-0と予想外の圧勝。今年のガンバはかなりヤバイかもしれない。
 レッズは前々日まで合宿をしていたというし、やはりコンディション的に不十分だったのだろう。おまけに闘莉王、相馬、長谷部、田中達也といった、日本代表組の過半数が不在──まあ、とはいってもスタメンの顔ぶれが、そうしたスター選手の不在を感じさせないところがすごいんだけれど。
 それに対してガンバは、五輪代表で合宿中の家長を欠くのみ。替わりに左サイドに入った十九歳の安田という選手もなかなかの出来だったし、こちらは非常に仕上がりがいい感じだった。ガンバはこの1年間にレッズと4回対戦して、3敗1分と一度も勝てなかったというから、この試合に臨むにあたってのモチベーションも違ったのだろう。そうそう、その3敗のうちのひとつは、このゼロックス杯だった。つまりこの両チームは二年連続での対戦なのだった。
 いまやJリーグの二強と呼んでもいいような両チームだけあって、今シーズンを迎えるにあたっての姿勢は(方向性こそ正反対ながら)、非常に似かよっている。どちらも基本的な戦力は昨年とほぼ同じ。リーグ1位と3位のチームだけに、現状戦力のままでも戦えるという判断だろう。
 ただし、レッズはアレックス、ガンバは宮本という中心選手を、ともにザルツブルクに送り出している。興味深いのは、両チームとも、彼らの穴を埋める補強を行っていないことだ。彼らが抜けた穴は現状戦力で補っている。その替わりに獲得したのが、レッズは阿部勇樹、ガンバはバレーということになる。この補強はとてもおもしろい。
 昨年度、Jリーグ屈指の守備力を誇ったレッズは、攻撃の一翼を担っていたアレックスが抜けたというのに、その穴を埋めるのではなく、阿部というディフェンシブな選手を獲得してきた。プレースキックをはじめとした阿部の得点力にも期待はしているのだろうけれど、それでも彼の売りは、どちらかといえば、やはり守備力。つまり攻撃力のマイナスを、より一層のディフェンス力の強化で補おうということなのだろう。いや、去年はアレックスの控えに甘んじていたけれど、もとより相馬がいる以上、スタメンレベルでは戦力面でのマイナスはほとんどないから、プラスアルファはできるかぎり攻守のバランスの取れた選手でということなのかもしれない。
 一方のガンバも、ディフェンスの要だった宮本の穴を埋めようとはしなかった。その部分を埋める替わりに、フォーメーションを3バックから4バックへと変更。キャプテンマークを山口に託し、シジクレイとのコンビでセンターラインを死守してもらって、浮いた一枚のカードで、より攻撃的なサッカーを目指そうとしている。なんたって、マグノ・アウベスと播戸という強力な2トップを擁するにもかかわらず、補強の目玉はFWのバレーなのだから。小柄な2トップとは違うプレースタイルの、高さを武器とするバレーを加入させることで、より一層の攻撃力のアップを図ってきた。ただし、中盤にもタレントのそろった今のチーム構成で3トップは考えにくいから、そのうちの一人は控えに甘んじることになるわけだ。まったく贅沢この上ない。なんでも今年のスローガンは「超攻撃」なのだそうだけれど、この日の内容を見れば、なるほどと思ってしまう。
 とにかく昨年、Jリーグ一の守備力を誇ったチームは、阿部を加えてその守備力に磨きをかけようとしている。そしてJリーグ屈指の攻撃力を誇ったチームは、さらにバレーという高さを加えて、その攻撃力に厚みを持たせてきた。両チームと対戦することになるこちらとしては、なかなか頭が痛いところだ。
 今日の試合を見るかぎり、現時点での仕上がりはガンバが圧倒的だった。先頃の合宿で日本代表に初招集された橋本が、明神とペアで2ボランチをつとめ、遠藤は高めの位置でプレーしていた。でもって、その遠藤が切れまくり。4点目のきっかけとなったプレーでのボールコントロールの美しさは感動ものだった。しかも、後半ロスタイムになってなお、最前列からプレスをかけているんだから、その運動量には頭が下がる。彼は見事にオシムのサッカーを吸収している気がする。
 この日はコンビを組む二川も、そんな遠藤に負けず劣らぬ活躍ぶりだった。2点目のミドルシュートを自ら決めたのみならず、そのほかの得点でも、ことごとくプレーに絡んでいた。とにかく今日のこの二人は本当にすごかった。インパクトはハットトリックを決めたマグノ・アウベス以上だった。
 マグノ・アウベスのハットトリックは、3点すべてが、ほかの人が打ったシュートのこぼれ球を決めたもの。それはそれで、ある意味すごい。いや、いくら調子がいまいちだとはいえ、レッズ相手にあれだけ惜しいシュートが何本も打てるガンバの攻撃力に恐れ入るし、そのこぼれ球が転がってくるところに三度いるマグノ・アウベスの得点感覚にも感心してしまう。「超攻撃」の宣伝文句はだてじゃない。
 対するレッズのほうは、山田や鈴木啓太の運動量と山岸のセーブ力、それとネネの闘莉王ばりの攻め上がりに感心させられたくらい。小野は年が替わっても、あいかわらずぴりっとしないし、注目の阿部のプレーにも目立つようなところはなかった。新監督オジェックの手腕もさだかじゃない。オーストラリア遠征ではボロ負けしたというし、この試合でも4失点と、自慢の守備力が綻びまくっている。でもまあ、まだシーズン前だし、主力を何人も欠いているわけで、これくらいで侮るわけにはいかないんだろう。エンゲルスは留任したようだし、そうなると、監督交替の悪影響もそれほど期待はできなさそうだ。やれやれ。
 なんにしろ、当面の問題はガンバ大阪。第二節でこのチームと対戦することになっている鹿島アントラーズのファンとしては、なんともこまった気分にさせられる快勝劇だった。うーん、手強すぎる。
(Feb 24, 2007)