2005年2月のサッカー

Index

  1. 02/02 ○ 日本3-0シリア
  2. 02/09 ○ 日本2-1北朝鮮 (W杯アジア最終予選)
  3. 02/26   横浜M2-2東京V(PK4-5) (ゼロックス杯)

日本3-0シリア

2005年2月2日(水)/埼玉スタジアム/TBS

 日本代表監督としてのジーコのサッカーをひとことで言い表すとしたら、それはずばり「辛抱」だ。代表に選ばれても、サブのメンバーにはほとんど出番がない。それでも腐らずに我慢しなくてはいけない。スタメンに選ばれた選手は、疲れたくらいのことじゃ簡単には替えてもらえないから、また違った形で辛抱を強いられる。彼らはピッチに立てないサブの仲間たちに対して責任がある。サブのメンバーにしても、仮にも代表に呼ばれている以上、呼ばれていない選手たちに対する責任がある。日本を代表するチームの一員として選ばれた以上、その責任を果たすには辛抱は不可欠だということなのだろう。そして見ている僕たちサポーターもまた、そんなジーコの作ったチームの、粘り強く勝利を目指す地味なサッカーを辛抱して見守ることを強いられる。この試合の前半、引き気味のシリアを攻めあぐむ日本代表の試合運びを見ていて、そんなことを思った。
 シリアは思っていたよりもいいチームだった。ちょこまかと元気に動き回り、パスも正確だし、(日本以外のたいていの国と同じように)ゴールを目指す意識も感じられる。これといったタレントはいなかったものの、カザフスタンに比べれば、だんぜん骨の折れる相手だった。それでも終わってみればスコアは3-0。スコアほどの力の差は感じなかったけれど、それでも日本が組織力でも技術でも上回っていたということなのだろう。
 そうした両国の差はわずかなものかもしれない。けれどそのわずかな差が90分間積み重なった結果、これだけの得点差がついてしまう。サッカーは得てしてこういうものだと思う。そして日本とシリアとの差は、また日本と世界との差でもある。その差は一朝一夕で埋まるものではないだろう。ここでもやはり辛抱強く、めげずにその差を埋めるべく努力してゆかなくてはいけない。ジーコはそんなことを日本代表を通じて僕ら日本人に教えてくれている気がする。あまり嬉しかないけれど。
 さて、松田の代わりに宮本が入って、国内組のみでのチーム編成としては、現時点でもっともジーコの信頼が厚いと思われるメンバー構成で臨むこととなったこの試合。やはりそれなりの相手だから、前の試合のように楽に得点を許してはもらえない。じれったい内容にさんざん辛抱を強いられた前半もそろそろ終わるかという頃になって、ようやく相手ゴールネットを揺らしてくれたのは鈴木隆行だった。加地とアレックス、両サイドからのクロスの連発の終点には彼がいた。高さを活かしたヘディングの先制ゴール。なんで彼はこういう、ここぞという試合に強いんだろう。不思議だ。
 僕は前の試合の2ゴールで、北朝鮮戦のスタメンは玉田で決定だろうと思ったのだけれど、どうもそう判断するのは時期尚早だったようだ。この試合での玉田は(悪かったとまでは思わないけれど)やや存在感が薄かったし、運動量と、いざという時の勝負強さでは隆行に一日の長がある。高原も帰ってくることを考えると、どうにも玉田には分が悪いようだ。本人もそう思っているんだろう、試合後の表情は厳しかったらしい。基本的に僕はこの三人の中では一番玉田のプレーが好きなので、できればスタメンで見たいのだけれど。そうは問屋が卸さなさそうなのが残念だ。
 二点目のゴールは遠藤のクロスに宮本が頭であわせたもの(この場面でも宮本とかぶってシュート・コースにいた隆行はポイントを稼いでいる)。このプレーでは遠藤が攻撃面でいいところを見せている。
 そんな彼がポジションを争う激戦区のボランチは、稲本、小野の招集が見合わせられたため、福西のスタメンがほぼ確定という様相。福西はここ2試合とも得意のヘディングでどんぴしゃのシュートを放っているし(どちらもアンラッキーなことにGKの真正面だった)、あの得点能力は捨てがたい。
 あと一つの椅子は遠藤と中田浩二の一騎打ち。鹿島ファンの僕ではあるけれど(というか、だからこそ?)DFとして海外移籍を決めた中田よりも、遠藤の肩を持ちたい。彼の場合、代表では今ひとつ攻撃参加が少ないのが気に入らないのだけれど、この日はちゃんと結果を残しているのだし、やはりどちらかを選ぶのならば、二試合のうち、より多くの時間出場していた遠藤だろう。
 そしてなによりもっとも注目されるのが俊輔とトップ下を争う小笠原だ。寡黙な彼が、北朝鮮戦は「海外組ではなく自分たちを使って欲しい」と積極的にアピールして臨んだというこの試合だ。その意欲のほどをどんな形で見せてくれるのか、楽しみにしていた。
 ところが。前半からあまり動きが良くない。ボールをキープできないし、小さなミスも多い。カザフ戦から中三日ということで、全員コンディション的には今ひとつのようではあった。だとしても、これは彼にとっては今後を占う意味でもとても重要な一戦だ。疲労なんかを言い訳に不甲斐ないプレーで終わるようならば、それまでの選手に終わってしまうだろう。これではやはりスタメンを俊輔に奪われるのは仕方ないだろうという出来だった。
 しかしそこはやはり本人が誰よりもそうした状況を強く意識していたのだろう。後半になると彼は徐々にその才能を発揮し始める。相手が退場で一人少なくなって、やや気が抜けたような展開になったにもかかわらず、積極的な守備と果敢な攻撃参加で、最後まで気合いの入ったプレーを見せてくれた。そうした姿勢が最後の最後になって、3点目のゴールという形で結果に結びついたのだと思う。トータルで見ると、決して絶賛できるほどの内容ではなかったけれど、とりあえずなんとか納得のゆくプレーぶりだった。できれば北朝鮮との試合は最初からピッチに立たせてあげたいと思う。
 そんな選手たちの命運を一手に握るジーコだけれど、選手交代はあいかわらずほとんどない。途中出場でフランスから戻ったばかりの中田浩二と本山を送り出したのみに終わった(あいかわらず鹿島贔屓な采配で困りものだ)。前の試合に出場した阿部や大黒らは使われず、三浦淳、茶野、西、楢崎の四人は、2試合とも出場機会がなかった。GKの楢崎や故障中の西はともかくとして、あとの二人はやはり可哀想だと思う。どうせならば5分だけでもピッチに立たせてあげたかった。
 明けて今日の午後に正式発表された北朝鮮戦のメンバーは、今回の招集メンバーから故障の西を除き、俊輔と高原を加えた編成となった。この分だと北朝鮮戦のスタメンは、シリア戦のメンバーから玉田と小笠原を除いて、海外組の二人を加えたメンバーになるんだろう。個々の選手の思いはいろいろだろうけれど、とりあえず予選突破という目標を忘れず、チーム一丸となって全力を尽くしてもらいたい。
 さいわいチームの仕上がりは良さそうだ。両サイドからのクロスの精度はかなり高くなっているし(特にアレックスは素晴らしい)、チームとしての連係も随分と高くなった。この分ならばそれほど心配することもないんじゃないかと思う。勝ち点3のミッション・クリアを信じて、一週間後の試合を楽しみに待ちたい。
(Feb 03, 2005)

日本2-1北朝鮮

W杯アジア最終予選/2005年2月9日(水)/埼玉スタジアム/BS1

 いよいよドイツ・ワールドカップへ向けての最後の戦いが始まった。拉致問題で関係がこじれている北朝鮮との対戦ということで、社会的にも大きな注目を浴びたこの試合。そうした社会問題を除いた場合の一番の注目は、なんといってもジーコが海外から招集した俊輔と高原をベンチに置いて、シリア戦と同じ純Jリーガーのメンバーで試合にのぞんだことだった。
 ジーコが海外組を偏重することに対しては、以前から一部の風当たりが強かった。事前練習に参加できない海外メンバーを寄せ集めて、コンビネーションがままならぬために不甲斐ない試合をするくらいならば、いっそ国内の選手にチャンスをあげた方がいいんじゃないかという意見だ。僕はそれにはどちらかというと反対で、もしも海外にいる選手が日本にとって一番いい選手だと考えるならば、なかなか招集も思うように行かない昨今──怪我人が多かったり、クラブとの交渉がすんなりいかないケースが増えてきて困りものだ──呼ぶことができた選手は積極的に使うべきだと思っている。たとえその試合でチームにマッチしなくても、少なくても90分一緒にプレーしたことで得るものはあるはずだから。そうやって獲得したものの積み重ねでチームが強くなってゆけばいいと思っている。
 ただしそれは、あくまでその試合が選手選考や調整が目的の親善試合ならば、という前提での話。今回のようにW杯の出場がかかった大切な一番ならば、やはりその時のベストの組み合わせをじっくりと見極めた上で選手を起用して欲しい。いくら日本が強くなってきたといっても、即席チームで簡単に勝ち抜けるほど地区予選は甘くない。そうした意味では今回ジーコが事前の二つの親善試合を見て、このままのメンバーで北朝鮮戦にのぞもうと決意したのはきわめて正しい選択だったと思う。一般的な意見としても俊輔たちのスタメン落ちはおおむね冷静、かつ好意的に受け入れられていたようだった。
 一部では海外組のモチベーションが下がるので、なにも来日する前に公言しなくなっていいだろうという意見もあった。けれどそれはまた別の話だろう。スタメンとサブの選手、どちらの心のケアにより気を配るかという問題で、今回のジーコはスタメンに起用することに決めた小笠原と玉田を安心させることを優先したということだ。それによって俊輔と高橋はショックを受けるかもしれないけれど、それは顔を合わせた時にジーコがきちんとケアしてあげればいい。そもそも自分たちが出るということは、他の人間が出られなくなるということだ。その事実をきちんと踏まえていれば、出ないなら行きたくないなんて言えるはずがない。
 あとスタメンで使わないならば、わざわざ長時間移動の負担をかけさせてまで海外から呼ぶは必要ないんじゃないか、という意見もあったけれど、これは論外。なんたって大事な一戦だ。万が一スタメンの選手が怪我をした場合のバックアップを考えれば、呼べる選手は遠慮なく呼んでおくのが当然だろう。小笠原が開始十分で削られて退場という憂き目にあった場合を想定すれば、俊輔を呼ばなくてもいいなんて言えるわけがない。万が一、呼ばないでそういう事態になった場合、試合後になぜ呼ばなかったという話になって責任を問われることになるのは想像に難くない。ま、そういう話をし出すと、じゃあ加地のバックアップはどうなっているんだとか、アジアカップの時にはFWは鈴木と玉田しかいなかったじゃないかという話になるんだけれど。いずれにせよ俊輔は代表には不可欠な選手だから、好調を維持している現在ならば、こういう試合への招集は当然だと思う。FW陣の充実ぶりを考えると高原は微妙なところだけれど。少なくてもこの日は二人をベンチ入りさせたことが大きな意味を持つことになった。
 この試合での日本代表は、開始わずか3分に小笠原の見事なFKで先制するという、最高のスタートを切る。本当に「喜んでいいの?」と疑問符をつけたくなるような、拍子抜けするくらいあっけない先制シーンだった。小笠原のキックは文句なしだったけれど、北朝鮮のディフェンスもあきれるくらいゆるい印象だった。特にGKがひどかった。こりゃ今日の試合は楽勝かと誰もが思ったろう。少なくても僕はそう思った。思ってしまった。ただそれと一緒に一抹の不安も覚えた。この一点が、日本代表が抱いていたはずの、いい意味での緊張感を解いてしまい、あとの展開が雑になりはしないかと。
 そうしたら悲しいかな、やはり案の定という展開になる。その後の日本代表はほんのわずかしか攻撃の形を作れないまま、前半を終わってしまうのだった。逆に北朝鮮は中盤のセカンド・ボールを拾っては、スピーディーなカウンターで日本のゴールを脅かす。とにかく日本の中盤はまったくプレスが効いていない。トラップは大きいし、ミスパスも多い。シリア戦で見せた両サイドの攻撃参加もすっかり影を潜めてしまっている。コンビネーションの良さを買っての国内組の起用だったはずなのに、連係が今ひとつなのはなぜだ。時折見せる鋭いインターセプトにはおっと思わせるものがあったけれど、とにかくストレスがたまる内容で、早い時間に取った一点が恨めしくなるような展開だった。
 結局そんな悪い流れが断ち切れないまま、日本は後半の半ばになってついに同点ゴールを許してしまう。パスミスから北朝鮮に渡ったボールは、コンパクトなパス交換でガラ空きの右サイドに渡り、そこにあがって来たサイドバックの選手の、ニアポストへの強烈なシュートへとつながっていった。川口は逆を突かれた形になって反応できず、フィールド・プレーヤーもクロスへの意識が強すぎて、シュートが頭になかった感じだった。
 この場面に限らず、北朝鮮はとにかく少しでもスペースがあれば、がんがんミドル・シュートを打ってきた。ペナルティ・エリアに入ってなおパスを出す相手を探してしまうような日本とはその辺が違う。少なくてもゴールに向かう基本的な姿勢に関しては、日本よりも北朝鮮の方が世界水準に近いんじゃないかと思えてしまう。ま、それは困ったもので、たいていの国に対して感じることではあるのだけれど。
 いずれによせ、その同点ゴールのしばらく前から、流れはすっかり北朝鮮に傾いていたし、同点になる前にも左サイドからのクロスに頭で合わされ、川口のファイン・セーブがなければ一点は確実という際どいプレーがあった。攻撃が形にならない上に、守備でこうも綻びていれば、同点は必然の結果だったと思う。
 ただ、ジーコ・ジャパンがおもしろいのは、いつでも苦境に立たされたあとに、がぜん元気になることだ。アジアカップの時も、先制されて初めて目が覚める、みたいな試合ばっかりだった。この試合もこのゴールのあと、突然日本代表は息を吹き返す。
 今回の場合は、同点劇の直後に満を持して投入された海外組二人の功績が大きい。俊輔のキープ力やパスのセンスには思わずうなってしまったし、わずかな時間で3本のシュートを放った高原も(決まりこそしなかったけれど)満足のゆく出来だった。二人が入ってチームの攻撃の迫力が倍増したことには疑問の余地がない。
 ただし、だ。それをすべて彼ら二人の貢献に帰して、やはり海外組は違うと言ってしまうのは間違いだと思う。あの時間帯で日本の攻撃が好転し始めたのに二人が貢献したのは確かだけれど、その二人のプレーを引き出したのは、フォーメーションを3-5-2から4-4-2に変更したジーコの采配だったと僕は思う。
 考えてみて欲しい。いくら俊輔がいい選手だといっても、一人でできることは限られている。基本的にチームの残りのメンバーはアジア・カップの時とほぼ同じだ。あの大会では俊輔がいてなお、この日と同じようなじれったい試合を見せられた。彼の活躍はFKの場面に限られていたような印象さえある。それなのに今回、ほとんど連携プレーの確認もできずにチームに加わった彼が、流れの中であれほどのプレーを見せることができたのはなぜなのか。イタリアでの彼の成長はその一因だろう。けれどそれ以上に大きかったのが、4バックへのフォーメーションの変更だと僕は思っている。
 ジーコは俊輔を送り出すにあたって、単純に彼を小笠原と置き換えることをしなかった。田中を下げて4バックとし、ディフェンスの駒を減らして、攻撃の比重を高めるという作戦に出た。今までに親善試合では行ってきたことではあるけれど、これが大切なW杯予選なのを考えると、押されている時間帯にあえてディフェンスの枚数を減らすという采配はかなりのばくちだ。僕はそりゃ危ないだろうと思った。
 ところがこの作戦がずばりとあたった。エースの投入は確実に北朝鮮に脅威を与えたし、そちらへ意識が集中することにより、小笠原がフリーでボールを持てる機会が増えた。そもそもチーム自体は振るわなかったものの、小笠原自身はそれまでも十分良いプレーを見せてくれていた。彼の危険性は北朝鮮も重々承知していたはずだ。そんなオガサと俊輔二人を同時にケアしなくてはならなくなった北朝鮮の困惑は想像に難くない。そういう意味ではジーコが彼を下げずに俊輔を使うためのオプションとして4バックへの変更を思い切ったのはとても妥当だったことになる。
 とにかく俊輔のプレーが素晴らしかったのは確かだけれど、そのパスの供給先に小笠原がいた場面が何度もあったことを見落として欲しくない。そうした場面をきちんと評価しないで「やはり俊輔の方が小笠原より上」とか簡単に言ってしまうのは間違いだ。
 そうはいっても、俊輔が素晴らしかったのもまた確かではある。彼のプレーは確実に以前より輝きを増していた。左サイドで相手から受けたパスを、ダイレクト・ボレーで中央の大黒に通したプレーには、思わず「すげー」と声をあげてしまった。
 ちなみにそのプレーでは、俊輔からのパスをトラップしてDFの裏へ抜け出ようとした大黒の技術にも感心した。残り時間は少なかったし、その場面ではシュートこそ打てなかったけれど、彼らのプレーからは追加点の匂いがぷんぷんと感じられた。そういう意味では、ロスタイムの劇的なゴールは、決して奇跡やラッキーなんかじゃないと思う。そのゴールに到るまでの攻撃の厚さには、決まって当然と思わせるだけの迫力があった。見ている際には全然安心なんかできなかったんだけれど、少なくてもこのままでは終わらないんじゃないかという期待感は最後まで抱いていられた。そしてそんな期待には、ちゃんと大黒が応えてくれたのだった。いやー、まいった。なにもそんなに年がら年中、劇的な勝利を演出してくれなくてもいいのに。そう思わないではないのだけれど、なにはともあれ、勝利にまさるものはない。
 とにかく海外組二人が出場してからの4バックでの戦い方についてはまったく文句がない。問題なのはそれ以前の3バックでのていたらくだ。
 去年から僕はずっとジーコが3バックを採用したことには苦言を呈してきた。日本の強みは豊富な中盤のタレントにあるのだから、わざわざディフェンスに3枚を割いて、その長所を削るような布陣はいかがなものかと思っていた。ジーコが3バックを採用するようになったのは、Jリーグではそれが主流だという消極的な理由からのはずだ。今回の小笠原の活躍で、彼が単に俊輔のバックアップではなく、ともにピッチに立つことでチームに貢献できる才能の持ち主であることは証明されたはずだ。彼の他にも国内には奥や山瀬など、中盤のいい選手はいる。本当に国内組を信用しているというのならば、海外組の「黄金の四人」が揃わないから4バックは使えないなんて言わず、彼らが来られない場合にも十分にその穴を埋める人材がいることを示す意味でも、4バックに戻して欲しいと思う。本気でそう願う。
 で、その願いが叶わない場合。現状の3バックを維持するならば、ボランチの持つ重要性が否応なく高くなる。不動の両サイドウィングに守備力の上で難がある以上、ボランチには積極的な守備と同時に、駒不足の中盤の攻撃力を補うという、攻守に渡るハイ・パフォーマンスが求められることになる。そうした目で見ると、福西も遠藤もこのフォーメーションの中で十分な働きをしていたとは言えないんじゃないかと思えてしまう。どこが悪かったというのではなく、彼らがもっと存在感のあるプレーをしてくれていれば、この日の試合ももう少し楽な展開になったのではないかと。
 それは俊輔と高原の代わりにスタメンを努めたオガサと玉田が、僕からしてみれば決して悪い出来ではなかったことが大きい。不動の両サイドと隆行はある意味いつもどおりなのだから、小笠原と玉田が評価に足るプレーを見せてくれている以上、攻撃が機能しない原因をボランチに求めたくなるのも仕方ない部分がある。しかもそのポジションに小野と稲本が控えているとなればなおさらだ。もしも彼らが出場していたらどうなのだろうと思わずにはいられない。
 僕は福西にも遠藤にも悪感情は持っていない。二人とも日本代表の選手として好感を持っている。けれどもこの日みたいな試合を見せられてしまうと、残念ながら小野と稲本の復帰を望まずにはいられなくなるのも致し方ないのだった。ということで試合が終わった今になって見ると、海外組の招集問題に関しては、俊輔のベンチ・スタートうんぬんを問うよりもまず、稲本の招集の方が必要だったんじゃないかという気がしている。故障明けから間もない小野はともかく、イングランド2部リーグでスタメン出場の続いている稲本は呼んでしかるべきだったんじゃないかと。ま、過ぎてしまったことではあるけれど。
 幸か不幸か、次の試合はアレックスと田中誠が累積警告で出場停止となる。3バックの採用にはアレックスの攻撃力を生かし、守備力の不足を補うためという部分があると思うし、田中誠は3バックの採用によりレギュラーの座を射止めた選手だ。このタイミングでそんな二人が欠場することになったのは、まるでサッカーの神様からの、4バックへ戻せというメッセージであるように思える。ただ次の対戦相手はグループ一の強敵イランだ。破壊的な攻撃力を考えるとDFを減らすのもちょっとこわい。直前合宿はドイツで、位置的に海外組の方がコンディションを調整しやすい状況になる。そうしたことも含め、尋常ではないプレッシャーが噂されるアウェーの一戦を一体どのようなメンバーで戦うことになるのか。ジーコの選択に注目したい。
 そうそう、この日のベンチ入りのメンバーにはDFが三浦淳しかいなかった。そこまで極端な人選をした上で入れた大黒が決勝点というのは結構インパクトがあるよなとか、この試合については他にもまだまだいろいろと思ったことがある気がするのだけれど、ここまでで既にとっちらかりまくりなので、これくらいにしておく。さあ、次は一ヵ月半後だ。('05.02.10)

横浜F・マリノス2-2(PK:4-5)東京ヴェルディ

ゼロックススーパーカップ/2005年2月26日(土)/横浜国際競技場/日本テレビ

 Jリーグ開幕を一週間後に控えた、恒例のゼロックス杯。なかなか見応えのある試合だった気がするのだけれど、その日の夜がひさしぶりの飲み会だったせいか、まだ3日ばかりしかたっていないのに、すっかり印象が薄れてしまっている。
 マリノスは日本代表での活躍を期待していた松田が肉離れで戦線離脱。久保もいなけりゃ、アン・ジョンファンもいない、坂田もいない。いくら選手層が厚いといっても、これでは攻守の駒不足は深刻だろうと思うのだけれど、これが意外と大丈夫な感じだった。相手の新外国人に2点を献上して引き分けこそしたが、サッカー内容は決して悪くなかったと思う。中でも印象が良かったのが上野。中盤の底で攻守に渡り、とても良い働きをしていた。この試合で一番良かったマリノスの選手は彼だと僕は思った。なのにそんな彼のPK失敗でマリノスが負けてしまうんだから、サッカーの神様はやることが残酷だ。
 山形から移籍してきたという24歳のFW大島(もっと老けて見える)もなかなか印象的だった。解説の北澤&武田から、ポジショニングの良さをとても評価されていただけあり、確かに盛んにチャンスに絡んでいたし、やや決定力に欠ける感はあったけれど、全体的には好感が持てた。もう一人、一時は逆転となるゴールを決めた途中出場の大橋(名前が紛らわしい)も、小さい身体ながらピッチに立ってすぐに積極的な攻めあがりでチームを逆転に導き、僕を驚かせた。こういう選手たちがいるんじゃ、いくら怪我人が多いといっても、やはりマリノスはあなどれない。
 対するヴェルディはなんといっても2得点のワシントン。派手さはないけれど、身体はでかくて強そうだし、なによりしっかりとした得点力のあるFWだという印象を受けた。なんといっても後半ロスタイムの同点ゴールの場面は、マークについていたのが中澤と那須だっただけに、ちょっとばかりショックだった。昨年度ブラジル国内選手権得点王とかなんとかいう売り文句は伊達じゃなさそうだ。あの調子でシーズンを通して活躍されたらたまらない。
 あとそう、元日本代表ボランチの戸田が、ヴェルディに移籍して、3バックの左にコンバートされていたのにも注目しておかないといけない。髪を伸ばしていて、ポジションのみならず、見た目の印象もちょっと変わっていた。
 ということでタイトル奪還を願うアントラーズ・ファンとしては、心穏やかならぬ両チームの出来を見せつけられた一戦だった。いよいよ1シーズン制となって再出発するJ1の開幕はいよいよ今週。われらが鹿島アントラーズの初戦の相手はなんと浦和レッズだ。うーん、いきなり……。
(Mar 01, 2005)