Coishikawa Scraps / Books

2025年12月の本

Index

  1. 『薬屋のひとりごと16』 日向夏
  2. 『海と毒薬』 遠藤周作

薬屋のひとりごと16

日向夏/ヒーロー文庫/主婦の友社/Kindle

薬屋のひとりごと 16 (ヒーロー文庫)

 ついにたどり着いた『薬屋のひとりごと』の最新巻。

 医療ドラマみたいだった前作につづいて、今回もメインは病気の話。地方の村で疱瘡が流行って、医局の人たちがてんてこまいすることになる。

 ちょっと前に猫猫(マオマオ)の後輩となった妤(ヨ)と、猫猫が薬屋の仕事で知りあった克用(コクヨウ)が、ともにかつて疱瘡に感染したことがあり、免疫があるということで、今回はけっこう大事な役どころを演じている。

 疱瘡といわれてもいまいちぴんとこないけれど、それがかつて法定伝染病だった「天然痘の別称」だと言われると、あぁ、それは大変そうだって思う。新型コロナウィルスのパンデミックからまだ数年なので、またもやあんなめになったら本当にやだなぁって思うと他人事じゃない。

 そんな重大事への対応に並行して、今回も猫猫はいろんなところへひっぱりまわされている。雀(チュエ)につれられて馬閃と里樹(リーシュ)の様子をのぞきにいったり。壬氏に請われて皇太后の親戚の毒薬投与事件の謎を解いたり。羅半が商売相手に拉致された事件を解決したり。最後は、らしからぬ態度で壬氏に甘えてみたりしている。

 いちおう疱瘡絡みの話は切りよく終わった感じけれど、さて、このつづきが読めるのは来年か再来年か。この作品、まるで終わりが見えない。

(Dec. 3, 2025)

海と毒薬

遠藤周作/角川文庫/Kindle

海と毒薬 (角川文庫)

 かつて読んだ『沈黙』がよかったので――とはいっても気がつけばもう十六年も昔のことだった――別の作品も読んでみようと思って、内容をまったく知らずに手にとった遠藤周作の作品なのだけれども。

 これはぜんぜん駄目だった。好きになれる要素がひとつもなかった。

 だって太平洋戦争中に、アメリカ人捕虜を生体解剖した人たちの話ですよ?

 そんな話だと知っていたら、絶対に読んでない。病院とか病気の話が嫌いな人間にとっては、完全に許容範囲外。三島由紀夫の『憂国』と同じくらい読むのがつらかった。

 まぁ、それほどグロテスクな描写があるわけではないのが救いだけれども、それでも命を救うことを生業としているはずの医者が、平気で人の命を奪うという事実がなんとも受け入れがたい。これが実話をもとにしたフィクションだと知ってなおさら驚いた。なんてことしてくれてんだ、戦前の日本人。

 まぁ、こういう醜い現実をフィクションとして白日のもとに晒すのも小説という芸術表現の役割のひとつだという考えもあるんだろう。主題は罪悪感ひとつ抱くことなく非道を働く権力者たちではなく、そんな悪党どもに流されるまま、事件に関与させられた弱き人たちの苦悩と煩悶なわけだし。

 ふつうの人がふつうではいられない。戦場で人を殺した人たちが帰国してあたりまえのように日常を送っている。そんな戦争のもたらす非人間性をあぶりだした作品としては、価値がある作品なのかもしれない。

 でも嫌なもんは嫌なんだ。あまっちょろい僕にはこの小説はまったく受け入れられない。紙で買わなかったのがせめてもの救いだった。

 あぁ、やりきれない……。

【追記】ゆうべテレビをつけたら、NHKでその「九大生体解剖事件」のドキュメンタリーをやっていた。そんな偶然ってある?

(Dec. 06, 2025)