2009年6月の本

Index

  1. 『20世紀の幽霊たち』 ジョー・ヒル

20世紀の幽霊たち

ジョー・ヒル/白石朗・訳/小学館文庫

20世紀の幽霊たち (小学館文庫)

 スティーヴン・キングの息子さんだという新人ホラー作家(でもなぜか苗字が違う)、ジョー・ヒルの処女短編集。父親に負けない才能だといって、あちらこちらで絶賛されているので、ちょっと読んでみようかという気になった。
 読み始めて少しして気がついたこと。そう言えば僕は、ホラーってあまり読んだことがないんだなと。スティーヴン・キングにしたって、『グリーンマイル』 とか 『ザ・スタンド』 とか 『スタンド・バイ・ミー』 とか、読んだことのあるのは、純然たるホラーとは言えない作品ばかりだし、そのほかだとダン・シモンズが少しと、 『リング』 や 『パラサイド・イヴ』 などの日本のベストセラーくらい。あ、あとラヴクラフトを少々。
 そんな風にあまりこの手の作風に馴染みがないからだろう。これを読み始めてすぐに、僕は違和感をおぼえた。たとえばスプラッター・ホラー映画を観て、物語が佳境にたどりつく前から、「あちゃー、これは俺は駄目だわ」と思うことがよくあるけれど、あの感じ。このあとひどいことになるんだろうなと思っていると、やはり思った通り、とてもひどいことになる。そういうホラーの予定調和的で過剰な悲劇性が僕はどうにも好きになれないみたいだ。その先に予期される惨劇を前に、気分がなえる。
 それでも、この人の作品でよかったのは、そういう悲惨さの予定調和が、いい意味で裏切られるパターンが多かったこと。ひどいことになるんだろうなと思って読んでいると、ひどいことになる前に終わったりする。そういうのってホラーとしてどうなんだかわからないけれど、少なくても僕にはちょうどいい塩梅だった。スプラッターな展開の作品もあることはあるけれど、決して多くはなかったし、大半の作品が許せる範囲で、節度をもって幕を下ろしている感じがして、その点では好感がもてた。そもそもホラーではない作品がけっこうあるのもいい。
 ということで、最初こそ駄目かと思ったのもの、終わってみればそれなりに楽しめた。これなら、いずれ長編デビュー作も読んでみてもいいかもしれない。なんたってそのタイトルが 『ハートシェイプド・ボックス』 なのだから――ニルヴァーナの曲名です――、ロック・ファンとしては無視できない。
(Jun 22, 2009)